出版社内容情報
【歴史と諧謔の仕掛人たち】近代前夜のフランスを舞台に、怪しげな医術と偽薬で人々の快癒の夢を育んだ異能の周縁者たちを〈文化の創造者〉として捉え直す民族歴史学の一大成果。
〈シャルラタン〉とは、近代前夜のフランスで、客寄せ芸人たちを引き連れ、祝祭や大市などを格好の舞台として、巧みな口上よろしく生半可な医術を営み、怪しげな薬を売りつけてはいずかたともなく去っていった周縁者たちのことである。一言では決して括れない存在だが、あえて具体化すれば「いかさま師」「もぐり医者」「香具師」などの職種をさす。彼らは長らく「負」の存在として、〈正統〉を汚す異端者として、歴史の「瑣事」として葬られてきた。しかし実は、彼らなくしてヨーロッパ近代文化はありえなかった。それが本書の主題である。〈正統医学〉は彼らをやっきになって排除することで自らを差異化し、〈近代医学〉たりえた。彼らの施術と口上は庶民に快癒の夢を見せ、パフォーマンスは古典演劇やサーカスの源流となり、ユーモアと饒舌の口上は〈シャルラタン文学〉すら生みだす。つまり彼ら流浪者たちこそ、その古代・中世的ふるまいによって近代の制度と文化をたちあげた存在であった。さらには、〈正統〉と〈異形〉の、〈日常〉と〈非日常〉の確として見える秩序を転倒させるトリックスターでもあったのである。本書は世界で初めてこの周縁者たちに光を当てた、他に類のない、民族歴史学的文化史である。
内容説明
シャルラタンとはいささか耳慣れない言葉だが、これは近代フランスにおいて、しばしばコメディア・デラルテ(イタリアの仮面喜劇)を出自とする客寄せ芸人たちを引きつれ、どこからともなく定住社会に闖入し、祝祭や大市などを格好の舞台として、巧みな口上よろしく生半可な医術を営み、怪しげな薬を売りつけては、いずかたともなく去っていった周縁者たちの謂である。正統者の虚実を嗤う異形精神の源流。ヨーロッパ近代前夜の侵犯した異能の周縁者たちの生態を通じ、現代にも生き残るシャルラタン的商業主義を喝破し、歴史・社会・文化の諧謔に満ちた装置を読み解く、世界初の“シャルラタン文化史”。
目次
第1章 シャルラタンとは何か
第2章 シャルラタン列伝
第3章 シャルラタン芸人たち
第4章 南仏のシャルラタンたち
第5章 大市のシャルラタン
第6章 正統の条件
第7章 シャルラタンの変容
第8章 ゲリスール
第9章 シャルラタン=ゲリスール現象
著者等紹介
蔵持不三也[クラモチフミヤ]
1946年、栃木県生まれ。早稲田大学文学部卒。パリ第四大学(ソルボンヌ校)修士課程修了。パリ高等社会科学研究院DEA課程修了。博士(人間科学)。現在、早稲田大学人間科学部教授。フランス民族学専攻
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