出版社内容情報
父が脳梗塞で倒れ、娘が付き添い介護をすることになりました。後遺症で上手く言葉をしゃべれず、身体も思うように動かなくなって、いらだつ父。そんな父にどう対処してよいかわからず、とまどう娘。そんな二人が、医療スタッフや補助スタッフ、他の患者たちとの出会いのなかで、特殊な「対話」のスタイルを発達させ、それが、障害を持って生きること、家族として接していくことに大きな変化をもたらしたのでした。この「対話」を中心に、医療・介護の現場でおきた出来事を読み応えのある筆致で記録したエスノグラフィー。
私の父は、65歳の誕生日を間近に控えた1990年8月16日、自宅で激しい頭痛を訴えた後、まもなく意識障害におちいり、駆けつけた救急車で大学病院に運ばれた。検査の結果、小脳梗塞であると診断され、約三ヶ月間入院して集中的な治療を受けた。後遺症として身体の片麻痺はなかったが、主として歩行のバランスと発語に障害があらわれた。・・・私は父が退院後に障害を持った身体で新たに生活を始める過程において、とりわけ言語を獲得し直していく多くの場面を共にし、あるいは目撃した者として、人が「話す」という行為が、「自分を生きる」という営みととても深くつながっていること。さらには病気によってさまざまなものを失った状態から「自分をどう生きなおしていくか」を模索していく過程そのものであることを教えられた。(「序章」より)
---------------------------------------------------
【関連書籍】
『 ワードマップ エスノメソドロジー 』 前田泰樹ほか編 (定価2520円 2007.8月)
『 システム現象学 オートポイエーシスの第四領域 』 河本英夫著 (定価4410円 2006)
『 医療のなかの心理臨床 』 成田善弘監修 (定価3990円 2001)
【新 刊】
『 質的心理学の方法 -- 語りをきく 』 やまだようこ編 (定価2730円 2007.9月)
内容説明
脳梗塞の後遺症に苦しむ父の怒りと葛藤…看病にあたった娘との間にいつしか生まれた独特な「対話」から、この本が生まれた。
目次
序章 本書のなりたち(参与観察の場所と期間;参与観察と分析の資料)
第1章 入院(石田さんの怒り)
第2章 リハビリが始まってからの生活(「散歩」;「散歩」の空間・時間 ほか)
第3章 退院後の生活(「話すという行為」;誰とどんな「声」で)
第4章 「変わりつつあること」に寄り添う(「他者性」―違和感と「応答」;「声」とアイデンティティの軌跡 ほか)
著者等紹介
土屋由美[ツチヤユミ]
南山短期大学英語科卒業後、商社に勤務。その後、上智大学外国語学部英語学科(言語学副専攻)卒業、東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。専門は臨床心理学、発達心理学。現在は臨床心理士として、日本福祉大学心理臨床研究センター研究員をつとめるほか、病院や保育園に臨床の場を持つ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。