出版社内容情報
死刑は野蛮だ、未だ死刑を残しているような国は文明国とは言えない、というような「人道主義的」風潮があります。しかし、世の中には凶悪犯がいるのも事実で、その被害者や家族にとっては、極刑以外に救われない。問題は文明か野蛮かではなく、単に文化の違いにすぎないのかもしれません。また、天皇制的民主主義国家・日本において「共和制への夢」は生き延びうるかを、思想・文学・サブカルチャーのなかに探ります。死刑存置論と天皇制批判、この一見相反する考えが共存するところに著者の「反時代性」があるといえましょう。
私は何も怖ろしいことを言っているのではない。廃止論者がしばしば哀れみを誘おうとして持ち出す、改悛の情が明らかな死刑囚に対して、恩赦、特赦を下す制度を整えるというのなら理解する。しかしそういう死刑囚がいるから死刑を廃止しろというのは、論理の飛躍である。世に、まったく改悛の情を見せない凶悪犯罪者がいる以上、死刑制度は残すべきである。死刑廃止論者がいくら同情に値する死刑囚の例をあげても、それは死刑にするほかない者たちの存在を抹消することにはならないのである。おもしろいことに、死刑廃止論者が描いたノンフィクションや小説の中には、まるでその犯罪者に対して同情心の起こらないものがある。佐木隆三 の『復讐するは我にあり』や、丸山有岐子の『逆恨みの人生』で、それはそれで、あとで触れるユゴーのように読者をごまかそうとするよりは立派な態度である。加賀乙彦の『宣告』は名作とされているが、見沢知廉のように自ら殺人を犯しておいて、刑務所内での待遇に不満を並べて文学作品として通用させているのは、図々しいとしか思えない。見沢が二〇〇五年に自殺したのを、私は悔い改めない殺人者に相応しい最期だと思った。(「なぜ悪人を殺してはいけないのか」より)
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【関連書籍】
『 資本主義黒書 』 R・クルツ著 (上6930円 下巻4620円 2007.5-7月)
『 マス・コミュニケーション理論 』 バラン、デイビス著 (上巻3780円 下巻3465円 2007)
『 思考のトポス 』 中村元著 (定価2625円 2006)
内容説明
死刑存置論から天皇制批判、オリエンタリズム概念批判まで、いかなる権威にも大勢にもなびかない著者の思考がさえわたる社会的エッセイ群。
目次
第1部 なぜ悪人を殺してはいけないのか(なぜ悪人を殺してはいけないのか―復讐論)
第2部 共和制への意思(戦後転向論;ファンタジーは君主制の夢を見るか?;マッカーサーの後継者たち ほか)
第3部 反時代的考察(「レザノフ復権」への疑問;忌まわしい古典『葉隠』;「オリエンタリズム」概念の功過―『トゥーランドット』と『逝きし世の面影』 ほか)
著者等紹介
小谷野敦[コヤノアツシ]
1962年、茨城県生まれ。東京大学文学部英文科卒。同大学院比較文学比較文化博士課程修了。学術博士(超域文化科学)。1990~92年、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に留学。大阪大学言語文化部講師・助教授を経て、国際日本文化研究センター客員助教授、東京大学非常勤講師。文藝批評、歴史、恋愛論などの広い分野で評論活動を展開(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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脳疣沼
Lieu
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裏竹秋