出版社内容情報
嘘や妄想は社会に大きな災厄を及ぼすこともあれば美や思想の土壌、心病める人の癒しともなる。では罪を生む嘘と無垢の嘘とはどこで別れるのか? ユング派分析家が自ら専門とする精神療法の虚構まで視野に入れて説く「嘘と妄想の広角パノラマ」。
目次
生きた神話と病んだ神話
第1部 空想虚言と神話賦与(空想虚言の世界―オウムの真理とは;虚偽をめぐる光と陰―日蓮の誓願と苦悩;欺瞞の功罪―セノイの夢理論 ほか)
第2部 正しさのもつ破壊性 偽りにひそむ創造性(影にとりつかれた治療者―志にひそむ破壊性;影をになった癒し手―矛盾が生む創造力)
第3部 個人神話の創造性とエロス(生きた個人神話と夢分析;妄想と個人神話;神話を生きるために)
著者等紹介
武野俊弥[タケノシュンヤ]
1953年東京生まれ。1978年、東京医科歯科大学医学部卒業。四倉病院にて副院長・院長を歴任した後、1988~1991年、スイス・チューリッヒのユング研究所に留学し、ユング派分析家資格を取得。1992年より精神療法・精神分析専門のクリニックを開業。現在、武野クリニック院長、医学博士
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感想・レビュー
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しょうゆ
2
非常に面白かった。ライヒ、カリオストロ伯爵、メスマー、日蓮などなど...著者の幅広い人間理解と碩学をベースにして、まさに自由自在に個人神話を生きることの大切さが語られていた。夢を中心にしたいくつかの事例も非常に教唆に富み、素晴らしい一冊だった。十年に一冊とあとがきにあったが、次回作が待ち遠しい。2017/02/01
hutosi
2
著者はユング派の精神科医で統合失調症の人を中心に臨床している人です。妄想を生きる人は理解されにくいけれど何処か集合的無意識に親和性のある個人神話を持っている、嘘を生きる人は人に理解されるために嘘と共に自らを空想の中で保ち続ける。そこに矛盾が生まれた時には現実を変える事で空想自体は変えない。妄想を生きる人は矛盾が生まれた時には空想に矛盾を組み入れる事で現実は現実のままに変えずに保ち続ける。最後に統合失調症患者の手記が引用されているのですが、これはまんまある大学の講義で紹介されていたものでした。探していたので2014/02/13
そうべえ
1
オウム真理教を臨床心理学的な側面から見つめると、教祖とカウンセラーの類似点は驚くほどある。影に取り憑かれてしまわず、影をみつめながらやっていくことが大事。カリオストロ伯爵やライヒにはエロスがあり、嘘を生きる人にとどまれた。メスメルや麻原、ヒトラーには権力欲があり、妄想を生きる人になってしまった。個人神話の大切さと、エロスの欠如により神話がただの妄想に陥ってしまう危険性を痛感。2016/03/01
マイア
0
「個人神話」のさまざまなあり方、人のさまざまな生き方について書かれていて面白かった。実在の患者の物語には心動かされた。 即効性がある解決策を求めることの怖さ、全てを理解できる首尾一貫した理論を夢見ることの危なさを感じた一方、自分自身を省みると、やはりつい「わかりやすさ」を求めたくもなると思う。2022/08/23