出版社内容情報
これまで、社会学の自我論やアイデンティティ論は、少数の例を除いてマイノリティの立場にある自己やアイデンティティを扱ってこなかった。取り上げられる場合でも「マージナル・マン」のように複数の対等な文化に引き裂かれる個人の内的葛藤や、黒人の自我の統合が挫折する必然などが、個別の事例として触れられるにすぎなかった。自我やアイデンティティの普遍的な理論的課題としてマイノリティ/マジョリティ関係が取り上げられることはなかったのである。言い換えれば、アイデンティティに潜む/アイデンティティのはらむ権力性については、アイデンティティ論や自我/自己論としては、考察されてこなかったのである。(本文「序」より)
内容説明
J.バトラーの先へ。言葉を奪われ、主体性を否定されたマイノリティは、いかにして差別を語り、自己を取り戻せるか。差別の社会学、ゴッフマン、カルチュラル・スタディーズ、ポストモダン・フェミニズムの理論の精査を通してアイデンティティのはらむ権力性を喝破し、“語る/聴く”主体の可能性を提起する。
目次
第1部 マイノリティと「主体」(社会現象としての差別―差別の定義をめぐって;スティグマ分析―「人間」であるための諸形式 ほか)
第2部 状況における権力と自己(行為と主体―解釈的パラダイム(ゴッフマン・エスノメソドロジー)の可能性をめぐって
状況定義/権力/アイデンティティ―「私」という定義をめぐる権力関係 ほか)
第3部 アイデンティフィケーション論へ(語る/聴く主体はいかにして成立するか―アイデンティティ論からアイデンティフィケーション論へ)
第4部 フェミニズムをめぐる考察(フェミニズムはどのように「近代」を問うべきか―「近代」主義論争のゆくえ;解放の思想から樹立の思想へ―フェミニズムが共有できるもの ほか)
著者等紹介
坂本佳鶴恵[サカモトカズエ]
1960年生れ。1987年東京大学大学院社会学研究科博士課程中退。北海道大学助手、日本女子大学助教授を経て、お茶の水女子大学教授。専攻は社会学(社会意識論・家族論・ジェンダー論)
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