内容説明
村上春樹の主要作品のなかから『ノルウェイの森』と『ねじまき鳥クロニクル』を取り上げ、二つの物語の内に私たちが生きている現実世界の痕跡を読み取っていく。「記憶」「他者」「身体」という共通の主題がそれぞれの物語をいかに起動・展開させているのかをたどりながら、恐怖に満ちたこの世界を生き延びるためのスタイルを模索する。
目次
第1部 記憶・他者・身体―『ノルウェイの森』と自己物語の困難(自己物語の氾濫/困難;想起(の物語)の失敗
身体/他者―自己物語とそのさまざまな困難
「直子」―沈黙する身体
「緑」―語り続ける身体
忘却の忘却としての物語)
第2部 災厄の痕跡―日常性をめぐる問いとしての『ねじまき鳥クロニクル』(日常性への問い;他者の同一性=正体をめぐる物語;偶発的身体;飽和する記憶;恐怖の持続)
そして、物語は続く
著者等紹介
鈴木智之[スズキトモユキ]
1962年、東京都生まれ。法政大学社会学部教授。専攻は理論社会学、文化社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あなた
5
私たちは物語にたより、物語で世界をふちどり、物語によって世界を修正しなおしながら生きていく語り手でもある。物語によって人生を改変しようと試みるし、また物語によって逆に人生が侵食されていく場合もあるだろう。つまり、物語はただの装置ではなく、相互作用をもつものとして有機的にとらえなければならない。本書では、きちんと物語と自己との関係づけを行いながら、まさしくその「過程」をふんでいくテクストが春樹のテクストにほかならないと、春樹のテクストにおける「自己語り」の運動性について論じている。物語を考えたい人におすすめ2010/08/10