出版社内容情報
構図のみじろぎ、
着ているものを脱ぎながら
失われた眠りの
入り口へある日、踏み出す
(「骨格散歩」)
意味と音韻の呼び交わす複眼のことばが、時間/空間をおおきく振れていく。新世代の旗手がついに放つ、8年ぶりの新詩集。未知の場を照らしだす、渾身の試行28篇。
装幀=奥定泰之
蜂飼 耳[ハチカイミミ]
著・文・その他
目次
骨格散歩
びょう、びょう
戦後野原、いまここの
そよがせながらいざるとき
ゆえに、そこにそらの
話題
顔をあらう水がほしい
骨拾い
ある死
籠〔ほか〕
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mm
15
2000万年の時の記憶、いきものの入れ替わりを閉じ込めた詩集。過去に出会いそこへ目を向け音を口からの言葉を聞こうとするの事を…「着ているものを脱ぎながら/失われた眠りの/入り口へある日、踏み出す」と書いてあるような気がする。言葉はいつも遅れてやってくるのかもしれない。だから…「掘り当てられたら貝塚に/朽ちない声を発見し/手をふって呼びもどす」再会があり、本当の痛みは尻尾を踏まれた時のものだったと思い出したり、こなごなに砕けて土に還った鹿の声が夕空を乱したりするんだ。2016/09/09
太田青磁
11
踏まれれば鳴きだすしっぽを私も/生やしていて、気がつけば/それは塵 塵 塵を掃いている/ひろい道、細道、掃いてみて、/びょうびょう鳴けば、/新たな闇に、また選択もなく、生まれるのです「びょうびょう」・口からの言葉は境界を書き換え/口からの言葉は他人の脳を捕獲/口からの言葉、人を、この人、をーー「ゆえに、そこにそらの」・前日に対面した人がじつは/職場から追放された人だと/知らされた顔は/どこへ向ければいいのか「話題」・谷から谷へと赤に染まる/こなごなに砕けて/土に還った/鹿の声に/夕空は底まで乱れた「丹沢」2016/09/22
林克也
1
これは2011.3.11以降に作られた詩だ、と思って読み、巻末の初出一覧で確認すると2008年の作品だったりする。例えば『リアリティー』の中に「人災天災、同じひとつの画面からこぼれて」とある。3.11で日本は、日本人は、確実に何かが変わったと思っていたが、実は多くの日本人は昔から何も変わっていないぞ、もともと思考停止を好む種族なんだ、ということを言っているのではないかと思った。2015/12/29
7ember
0
「スプーンですくえば」とか「まばたきすれば」みたいな軽やかなイメージを使って、カタストロフィックな破壊力や爆発的エネルギーをポンと出してくる当たり、お見事としかいえない。他の細かいところでも「みるまに」とひらがな表記を用いることで副詞の「みるみる」を喚起させせる表記のたわむれ、「仕組まれた死」というような音のたわむれ(「シ」の音で始まり終わるように「仕組まれ」ている)などの技巧があって、読んでいて面白い。2016/03/01
まんぼう
0
2016年初読み。時代を辛辣に映すことば、そして私情を昇華することば。徹底的に客観的な蜂飼さんの文が、わずかながら感情を纏ったのが、本作だ。味わい深いけれど、いつまでも咀嚼して飲み込めないするめと、ほどけるように喉に溶け入る砂糖玉が、交互にやってくる感じ。そうなったのは、時代のせいなのだろうか。無意識だとしても、それはとても信頼に足ることなのではないだろうか。2016/01/01