内容説明
わたしは父と手をつなぎ/うたいながら帰ります/夕ぐれるこの町を。さり気なくおかれたこの3行を、典型的な幼児体験のスケッチだといったんは読み過ごした読者も、つづく「とおいとおい過去のこと/朝鮮半島の雀のお宿」という2行にきて、はじめてこの詩が内包する切実なモチーフに気づくに違いない。「あれから五十余年を生きました」と詩人はいう。刑事に連れ出される父、若くして病死した母、自刃した弟。日本と朝鮮の板挟みに苦しんできた「殖民二世」のひたむきな生き方が、高度な詩的表現となって結実する。
目次
あさぼらけ
よるってなあに?
峠道
潮
千年の草っ原
空
あさの十時
午後のシンフォニー
川
母国さがし〔ほか〕