内容説明
らいになって良かった。ハンセン病(らい病)は、彼から手を奪い、光を奪い、声帯を冒し、家族も奪った。「てっちゃん」の愛称で親しまれた詩人・桜井哲夫は、59歳で詩作と出会い、ユーモアあふれる魂の叫びを詠い、多くの人々の心をつかんだ。こんなにも喜び、笑い、見つめ合い、はしゃぎ、泣いたのか。講談社出版文化賞受賞後初のフォト・ドキュメント。
目次
第1章 夢がかなった釜山の旅
第2章 てっちゃんと「山の療養所」
第3章 全生園入所者それぞれの想い
第4章 過酷労働の島小鹿島
第5章 日本の「アウシュビッツ」
第6章 長峰利造の「破戒」
著者等紹介
権徹[ゴンチョル]
ドキュメンタリー写真家。1967年韓国生まれ。94年に来日し、写真専門学校で報道写真家・樋口健二氏に師事。99年ハンセン病回復者を取り上げた写真記事で雑誌デビュー。『歌舞伎町』(扶桑社刊)で第44回講談社出版文化賞写真賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kikuyo
23
ドリアン助川さんの「あん」を読んでから気になって読んでみました。 目が見えない、指を失って点字もできない、闇の中で詩の言葉を紡ぐ。どの漢字を使うのか、行換えもすべて頭の中でイメージしながら。 代表作「おじぎ草」は、明るくユーモアを失わない素敵な作品。苦しみを乗り越えてきた自信が刻まれた自分の顔に、誇りを持っているてっちゃん、 大空を見上げて笑っている写真が印象的。「この味わいは、オレじゃないと出せないでしょ」2019/02/27
今庄和恵@マチカドホケン室/コネクトロン
3
「らい」でない人生をてっちゃんは知らない。てっちゃんが持っているもの、てっちゃんから与えられているものはてっちゃんが「らい」だったからこそだ。著者はてっちゃんが「らい」だったからこそてっちゃんから与えてもらったものがあるのだ。著者こそ、また、この作品によって得るものがあった人こそ「らい」があって良かった、と思うべきなのだろう。自分が体験せずに済んだ「らい」を体験することによって、体験しないと得られないものを与えてくれることに。「らい」の苦しみが報われるためには、苦しんだ人から苦しんでいない者が受け取るだけ2014/01/25
YOKO.S
1
以前、ドリアン助川さんの「あん」を読んだので、気になって手に取りました。全生園の桜の写真を見て「あん」の世界をリアルに感じました。 権徹さんのフォトドキュメントですが、権さんの真摯に取り組む姿勢が伝わってきて、感動しました。 てっちゃんの明るさが伝わってくる写真ってすごいなと思いました。2014/08/05
100名山
0
最近、後遺症により身体が変形した元患者やその生活を被写体にした写真集や写真エッセイが刊行されています。「てっちゃん」はその最たるものではないでしょうか。ご本人が認める相対的に過酷な身体的変形をさらさなければなかなか訴えが通じず、伝え残すことができないという悲壮感から「らいになって良かった。」と言わせてしまう心の深みを感じます。釜山の人々のてっちゃんへの対応が心にしみました。2016/10/16