内容説明
英文学史上、ときにシェイクスピア、ディケンズと並んで三大天才と称されるキプリング。ジョイスやT.S.エリオットにも影響を与えたモダニズムの陰の開拓者としてのキプリング。英文学のキャノンからはずされてきたキプリングの全貌を同時代史とポストコロニアリズムの視点から読み直す、本邦初のキプリング総合研究書、ついに刊行。
目次
序論 キプリング時代のキプリング
1 『キム』―「他者」の認識と主体の位置
2 茶色の皮膚、白い仮面―『ジャングル・ブック』について
3 短編(インドもの)
4 光学器械・帝国・夢―肉眼でみる/心の眼でみる/夢をみる
5 後期短編―キプリングの借方/貸方、限界/再生
6 変質のイングランドと再生の帝国―『消えた光』のジェンダー・ポリティクス
7 キプリングの詩と韻文
8 キプリングの児童文学―Puck of Pook’s HillからRewards and Fairiesへ
9 引用と境界―『ストーキーとその仲間』
終論 現代批評のなかのキプリング
著者等紹介
橋本槇矩[ハシモトマキノリ]
1944年生まれ。東京大学大学院修了。英文学、アイルランド文学専攻。現在、学習院大学文学部教授
高橋和久[タカハシカズヒサ]
1950年生まれ。東京大学大学院修了。英文学専攻。現在、東京大学文学部教授
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感想・レビュー
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ヴェルナーの日記
1
キプリング作品を11人の批評家により、多視点から評論した作品。キプリングといえば、帝国主義者、ミソジニー(女性嫌悪)など、あまり評判がよくない。しかし、その批評は1960年代以前の批評であり、米ソ間における冷戦時代の只中のころであった。80年代の終わり、ソ連は崩壊し、ベルリンの壁が壊されたことが象徴するように、世の中は大きく激変した。いまや良くも悪くもグローバル化が進み、ボーダーレスの時代に移行しようとしている。それまでの文学理論では分析できなかった作品も新たに見直されている。キプリングもその一人である。2014/07/31
うにこ。
1
「キプリング インド傑作選」を読み返したら、これも読み返したくなるのは自明の理…! だってこれに取り上げられてる短編のほとんどは、インド傑作選と岩波書店の「キプリング短編集」でフォローできるんですもの。あ、あと国書刊行会のバベルの図書館シリーズのキプリングの巻もね。新版バベルの図書館欲しい…。 というわけで、初読の時はまだ日本で翻訳されていない作品なんかもあって論考だけ読むという悲しい体験をしていたわけですが、もう大丈夫。インド傑作選のおかげで、作品に触れた後に論考をさらうという贅沢な時間を過ごせます。 2012/12/15
うにこ。
1
面白すぎた。 キプリングの本邦未訳の作品までも含めた、キプリング網羅の研究書。ってか論文集。キプリングに貼られたレッテルはレッテルとして、それを否定肯定双方の側面から、当時の時代背景や批評・作品テーマなどいろんな材料を使って論じてる。 内容としては、まず有名なキムとジャングル・ブックを各1章ずつ使っての考察、そして初期と後期に分けて短編の考察、詩の考察、児童文学作家としてのキプリング、思想的な面からのキプリングの追求、現代の批評におけるキプリングの立ち位置という感じでしょうか。本当に面白い論文集。2007/01/12