内容説明
科学技術がもたらした「近代のまなざし」。そのもとで、評価・選別される匿名の大衆。現代まで続く管理技法。
目次
1 もう一つのエリス島物語―アメリカ移民はいかに選別されたか
2 ナチスの人種検査―厳密さに彩られた虚構
3 見世物にされた人たち―フリークス・野蛮人から人種標本へ
4 写真の発明と近代―新しいまなざしと分類・選別
5 指紋の近代―個体識別法の「革命」
6 知能テストのはじまり
著者等紹介
山下恒男[ヤマシタツネオ]
1940年、横浜に生まれる。茨城大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Mealla0v0
3
人間に対する近代的なまなざしは、写真・指紋法・知能テストという3つの技法によって形成されてきた。大衆社会の登場によって、人々は匿名の、平板な存在として認識されるようになる。そのなかで、集合としての人間を測定する技術は、それらの平均的な値を割り出し、望ましい人間を選別し、望ましくない人間を排除するように機能してきた。本書が注目する3つの技術のすべてに関係するゴルトンは優生学の父であり、それら人間測定術は人種の優劣などの測定にスライドしていった。測り得ないものを視覚化・表象することと、差別の結びつきが問題だ。2020/08/31
ひろゆき
1
十九世紀から二十世紀前半に地球上の文明国で起こったことを例に、まなざしに支配された人の運命を述べる。アメリカ。土地の所有がほぼ確定した開拓時代のあとでは、必要なのは有能なプロレタリアートで、移民に対し面接試験が課せられ選別(「無能者」の排除)がされていたこと。ドイツ、ナチス。ユダヤ人の排斥といっても、アーリア人との混血が多いのであって、どのように選別するか。統計による頭蓋などの外形基準では不十分、肉体内部にまで基準を求める…ゲロゲロ。その他、「奇形」の見世物、指紋、知能テストなど。支配は選別する眼差し。2012/07/17
志村真幸
0
著者は教育心理学の専門家。 本書は、現代書館が発行元となっている『社会臨床雑誌』に掲載された5篇+書き下ろしから構成されている。 近代における人間の計測と記録について論じられており、移民たちのアメリカ入国時に行なわれた知能テスト、常習的犯罪者たちを識別するための道具としての指紋や写真、ナチスによるユダヤ人を見分けるための検査など、いかに科学がひとびとを抑圧し、ねじまげ、分断してきたかがよく分かる。 入門的かつディテールも詳細に書かれており、初学者にも、それなりに詳しいひとにも有用な一冊と思う。 2021/04/01