内容説明
2016年7月、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が犠牲となった事件から間もなく5年。同園の元職員で、現在は大学で社会思想史を講じる著者が、膨大な調査資料に基づき事件の核心に迫る。
目次
人間社会の「根源悪」
事件の“以前”と“以後”
証言するということ
初公判の前に
裁判から何が見えるか はなホームの状況
裁判から何が見えるか にじホームの状況
裁判から何が見えるか つばさホームとみのりホームの状況
裁判から何が見えるか いぶきホームの状況
裁判から何が見えるか すばるホームの状況
友人たちの証言
交際女性たちの証言
判決
安楽死・尊厳死を考える
根源悪と人間の尊厳について
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
南北
43
遺族や職員の調書や意見陳述、被告人質問などを通して、事件の真相に迫ろうとしている。被告人質問は遺族とのやりとりが噛み合わないことが多く、真相は見えてこなかったが、注目すべき点がいくつかあると思った。1つ目は県直営から社会福祉法人に民営化され、園と地域との関係が希薄になっていたこと、2つ目は植松聖が小学校2年生の時に「障碍者は不幸をつくる」という内容の作文を書き、先生に叱られて書き直しになったこと、3つ目はALS患者で参議院議員の舩後靖彦氏が障碍者療護施設で職員から虐待を受けた経験を述べていることだ。2021/08/20
にしの
7
この事件にはすでに多くのルポや考察があるが、獄中の犯人にカフカ『掟の門』の感想を求めた筆者は哲学的に事件と向き合う。筆者は被害者を記号に、犯人をモンスターにする風潮に対して抗している。それは犯人が自らの尺度で被害者を人間の外側に排除した「強者の理論」と同じロジックに陥っているからだ。犯人は人間の心の黒い点を深く見つめることなく、浅はかで短絡的にそれを増大させていった。そして、その黒い点はわれわれ自身と社会にも内在している。本著は心の黒い点を増大させないための自己、社会の有り様を考えるきっかけになる。2021/11/07
くらーく
3
裁判関係の情報は興味深い。事件の経緯や被害者、遺族、友人等の発言も多々あって、いろいろと考えさせられる。 本書で特に興味を引いたのは、被告の小学校時代の作文の事(273-274ページ)で、著者も残念でならない、とかいてあるが、その通りだと思う。物心つくまでに、何かしら障碍者に対する排除意識のようなものが植え付けられていたのでは無いのかねえ。言葉なのか行動なのかは分からないけど。子供のころの意識づけ?って重要だと思うけどなあ。 言葉が発せない重度障碍者でも、気持ちが伝わるような時代が早く来て欲しいねえ。2021/08/07
Akio Kudo
2
★★★★ 難しい本だが、読むべき。2023/12/16
030314
2
裁判での証言の内容や、植松本人へのインタビューは興味深い内容だった。遺族の言葉は皆、一様で、「被害者は自分の生きがいであり、かわいい。被告へは極刑を望む」というものだ。一方、施設の職員側からは、植松が「障害者は価値がない」などと考えるのも仕方ないと思わせるような言葉もある。自分自身の命題である、生きる価値について考える、良い題材となった。著者の分析や哲学書からの引用が多くされているが、ほとんど意味不明で理解できなかった。人が生きるのは、むずかしく考える必要なんてない、単純なことだと思うけど!2021/09/01