出版社内容情報
人権や民主主義、市場や競争の正当性、科学的実証性など、現代社会において自明とされる概念は、不平等の構造を拡大・深化させる「普遍主義」という暴力に支えられている――16世紀から現在までを世界システム論に基づいて検証、その臨界性を指し示す新たな展開。
謝辞/Acknowledgments
はじめに/Introduction:
――今日における普遍主義の政治学/The Politics of Universalism Today
第I章 干渉の権利はだれのものか/ Whose Right to Intervene?
――野蛮に対する普遍的価値/Universal Values Against Barbarism
「非文明」的地域への干渉は正当か
ラス・カサスの反干渉論
伝道、文明化の使命、そして人権
人道的干渉の矛盾――ラス・カサスの原則と現代
第II章 ひとは非東洋学者になりうるか/Can One Be a Non-Orientalist?
――本質主義的個別主義/Essentialist Particularism
『ペルシア人の手紙』
アブデル=マレクとサイードのオリエンタリズム批判
オリエンタリズム批判の射程――サイードの批判の三つの宛先
個別性の普遍化と普遍性の個別化
第III章 真理はいかにして知られるか/How Do We Know the Truth?
――科学的普遍主義/Scientific Universalism
科学的普遍主義の勝利
近代世界システムの構造的危機
「二つの文化」の制度化
大学システムの変容と知の社会科学化
第IV章 観念のパワー、パワーの観念/The Power of Ideas
the Ideas of Power:
――与えることと受け取ること?/To Give and to Receive?
ヨーロッパ的普遍主義1 「野蛮」に対する干渉の権利
ヨーロッパ的普遍主義2 オリエンタリズムの本質主義的個別主義
ヨーロッパ的普遍主義3 科学的普遍主義
「与えることと受け取ることが一致する場」
文献一覧/Bibliography
訳者あとがき
索引
はじめに:今日における普遍主義の政治学
(…前略…)
このように普遍主義に訴えるレトリックには、主として三つの種類がある。第一は、汎ヨーロッパ世界の指導者たちが追求している政策を、「人権」の擁護、さらには「民主主義」とよばれているものの促進だとする主張である。第二は、「文明の衝突」という隠語で語られているものである。そこではつねに、「西洋」文明は、普遍的な価値や真理に立脚する唯一の文明として存在してきたので「他の」諸文明に優るものだ、とされている。第三は、市場の科学的真理性を主張するものである。これは、政府には、新自由主義的経済学の諸法則を受け入れ、それに即して行動する以外、「ほかに選択肢はない」〔“There Is No Alternative”〕という考え方のことである。
(…略…)しかしながら、これらは決して新しい主題などではない。本書で示すとおり、それらはむしろ非常に古い主題であり、少なくとも十六世紀以来、近代世界システムの歴史を通じて、権力の基本的なレトリックを構成してきたものなのである。このレトリックには歴史がある。またこのレトリックへの反対にも歴史がある。突き詰めると、論争はつねに、普遍主義ということばがなにを意味しているのかをめぐって展開していた。私が本書で示そうとしているのは、権力の普遍主義がつねに、部分的で、歪められた普遍主義であったことである。それを私は「ヨーロッパ的普遍主義」と呼ぶ。なぜならそれは、近代世界システムの支配者層にとっての利益を追求する、汎ヨーロッパ世界の指導者および知識人によって唱導されてきたものだからだ。私はさらに、〔ヨーロッパ的普遍主義ではなく〕ほんとうの普遍主義――本書では「普遍的普遍主義」と呼ぶ――に進むための道筋についても論じたい。
ヨーロッパ的普遍主義と普遍的普遍主義との闘いは、現代世界におけるイデオロギー闘争の中心を占めており、その帰趨は、今後二十五~五十年のうちにわれわれが入っていくことになる新しい世界システムがどのように構築されるのかを決定するうえで、大きな要因になろう。二つの普遍主義のあいだの選択は避けられない。なんらかの超個別主義的立場――この星のいたるところで唱導されているあらゆる種類の個別主義的思想のすべてに平等な価値を求める立場――に撤退することはできない。なぜなら、超個別主義は、実はヨーロッパ的普遍主義と現在権力を有する者たち――彼らは非平等主義的で非民主主義的な世界システムの維持をもくろんでいる――の力に対する隠れた降伏にほかならないからである。既存の世界システムに対する真のオルタナティヴの構築を目指すならば、普遍的普遍主義の内容を系統立て、制度化していく道を見いださなければならない。普遍的普遍主義は達成可能ではあるが、その実現は自動的でもなければ不可避的でもない。
人権と民主主義の概念、普遍的価値および真理に基礎づけられているがゆえの西洋文明の優越性、「市場」への服従の不可避性――これらはすべて自明な考えとして、われわれに提示されている。しかし、それらは自明でもなんでもない。これらの考えを、曇りなく評価し、少数の者にとってではなく、すべての者にとって有用なものとするためには、注意深い分析と、有害で非本質的な要素の摘出とが必要である。これらの考えが、そもそもだれによって、どのような目的のために主張されるようになったのかを理解することは、そのような評価の作業において不可欠のステップである。そしてまさにその作業こそ、本書が寄与せんとするところである。
内容説明
人権や民主主義、市場の優越性や競争の自明性、科学的実証性など、現代社会において自明と思われている概念は、不平等の構造を拡大・深化させるレトリック、「普遍主義」という暴力に支えられているのではないか。―16世紀から21世紀の現在までを貫く暴力を、世界システム論に基づいて具体的に検証し、その臨界性を指ししめすウォーラーステインの新たな展開。
目次
はじめに 今日における普遍主義の政治学
第1章 干渉の権利はだれのものか―野蛮に対する普遍的価値
第2章 ひとは非東洋学者になりうるか―本質主義的個別主義
第3章 真理はいかにして知られるか―科学的普遍主義
第4章 観念のパワー、パワーの観念―与えることと受け取ること?
著者等紹介
ウォーラーステイン,イマニュエル[ウォーラーステイン,イマニュエル][Wallerstein,Immanuel]
1930年生まれ。ビンガムトン大学フェルナン・ブローデル経済・史的システム・文明研究センター所長。イェール大学シニア・リサーチ・スカラー。1994‐98年、国際社会学会会長。93‐95年には社会科学改革グルベンキアン委員会を主宰、そこで交わされた討論リポートを『社会科学をひらく』(邦訳、藤原書店)としてまとめた。世界システムの理論構築の草分けとして知られ、『近代世界システム』全3巻(邦訳、岩波書店・名古屋大学出版会から計4巻)の著作は有名
山下範久[ヤマシタノリヒサ]
1971年生まれ。ビンガムトン大学社会学部大学院にてウォーラーステインに師事、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。北海道大学大学院文学研究科助教授を経て、立命館大学国際関係学部准教授。専攻・世界システム論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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Yuri Mabe
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汽