妖怪セラピー―ナラティブ・セラピー入門

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  • サイズ A5判/ページ数 198p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750323749
  • NDC分類 493.72
  • Cコード C0011

出版社内容情報

ナラティブ・セラピーの考え方を分かりやすく解説し、さらに読者が自分でナラティブ・セラピーを実践するための方法を示した入門書。ナラティブ・セラピーにおける「外在化」に日本に昔から伝わる妖怪を登場させ、より実践的で親しみやすい内容となっている。

本書の利用の仕方
1章 妖怪セラピーの基本
 タネ明かし
 社会構築主義
 人々が作りあげる物語
 支配的な物語/もう1つの物語
 変化する支配的な物語
 支配的な物語からの距離をとること
 お粥の話
 外在化(あいつが悪い)
 心地のいい物語を求めて
2章 ナラティブ・セラピーの思想背景
 知と力
 知に抹消された物語としての妖怪話
 パノプティコン
3章 妖怪セラピーの方法
 フローチャート
 妖怪「ぶるぶる」の例
 妖怪シート1 妖怪出没シート
 妖怪シート2 妖怪とわたりあうシート
 セレモニーの時間
 妖怪シート3 妖怪分析シート
 記入例
解説
 妖怪が闊歩する社会を目指して
 自分ですること、大きな目で見ることの意味
使用上の注意
● 妖怪シート
 妖怪シート1 妖怪出没シート
 妖怪シート2 妖怪とわたりあうシート
 妖怪シート3 妖怪分析シート
● 妖怪ファイル
ぬらりひょん/やまびこ/見越し入道/わうわう/ネコまた/あすこここ/にがわらい/貧乏神/アズキあらい/ぶるぶる/いそがし/じゅうじゅう坊/のぞき坊/白うかり/金づち坊/虎にゃあにゃあ/こわい(狐者異)/かみきり(髪切り)/くびれオニ(縊鬼)/口さけ女/カッパ(河童)/夜なきばば/やまんば/酒呑童子(しゅてんどうじ)
● 妖怪インデックス
あとがき
引用文献
参考文献
妖怪関連の参考文献

本書の利用の仕方
 妖怪セラピーは、自分で自分の心をいたわる手段である。語呂がいいのでセラピーとしたが、「治療」や「療法」というよりも、解決のための考え方を提供するものと考えていただきたい。
 何かに悩んでいる人、あることについて考えると夜も眠れない人、イライラする人、考えたくないのについ考え込んでしまう人、思い出したくないことを思い出してしまう人。こうした人々に、その解決法を提案している。特に悩むほどでなくとも、よりよく生きるためには片づけておきたい事柄でもいい。
 悩みのもとをたどると、大きく分けて2つのパターンがあるだろう。1つは、自分の内部に原因がある場合。もう1つは、自分以外の人や集団に原因がある場合。そして人は、問題を解決するためにその原因を探り出し、取り除こうとする。それでもなかなか解決できないことだって多い。自分以外に原因がある場合、どうしようもないこともある。そんなとき、悩んでも仕方がないことは分かっていても、ついつい、考えてしまったりする。そう、分かっていても、つい考えてしまう。だからといって、宗教に走ろうとも思わない。
 そんなとき、この妖怪セラピーをお勧めしたい。悩みがストレスとなって、気分が落ち込んだり、食事がまずくなったり、睡眠時間を奪われたり、肌トラブルが起きたり、ハゲが進んだり、白髪が増えたらソンだ。
 あるいは、こういう場合もアリだろう。もしかすると(もしかしなくても)自分が悪いのかもしれないけれど、自分自身を急には変えられないこともある。それで落ち込んで、明日からの生活に支障をきしたりしても、困るのは自分だ。そこに悪循環が生じかねない。それなら、ひとまず妖怪の「力」を借りるというのも合理的な選択と考えよう。
 これに加えて本書は、最近各方面で注目されているナラティブ・セラピーについて分かりやすく説明することも目的としている。ちょっとナラティブ・セラピーをかじってみたが、ワケが分からなかったという人にも読んでいただきたい内容となっている。

 筆者が『妖怪セラピー』を執筆しはじめたのは、現在の人々の思考パターンに危機感を覚えたことにある。何か人間関係上の問題があったとしよう。この問題を解決するためには、まず問題を把握することが大切とされるだろう。このとき、人の内側にこもるようなストーリーしか用意されていないとしたら、それは大問題だ。
 悩みあるいは気がかりなことがある人は、その原因が何か、考えをめぐらせてきたことだろう。その答えを導き出すために、人はたいてい、何かを手がかりにしてきた。この手がかりにはいろいろなものがある。最近この手がかりとして人気を集めているのは、両親の不和など機能不全家族のなかで育った人をさすアダルト・チルドレンや、トラウマといった概念だ。
 たとえば、トラウマという言葉。トラウマ(精神的外傷)とは、後遺症として残るような心理的なショックや体験のことをさす。この言葉はもともと、心理学の用語であったが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含め、今では広く知られるようになり、日常語となってしまった。
 斎藤環は、虐待の記憶を含めたトラウマの告白本と「トラウマ・フィクション(トラウマが題材となった小説など)」が流行する状況について、「トラウマ語り」が若い世代を中心とした人々の「実存への欲求」を代弁することになったことと関係づけている。トラウマとは誰もがもつことのできる極小の「物語」であり、「政治にも思想にも、みずからの『実存』を仮託するようなリアリティが感じられないとき、ひとはより断片化、細分化された物語にしがみつくほかない」(斎藤環〔2003:202〕)。
 悩みを抱える人がこの発想に魅力を覚えると、自らを主人公にして、このトラウマの物語を語りだす。現在直面している人間関係や恋愛の問題は、過去のトラウマが関係していると。またトラウマには、癒しがセットとなっていることが多いが、その一定のルールのなかで、人は解決方法を模索しなければならない。
 悩める人自身が、トラウマのストーリーを求めてきた。また取りたてて悩みはないという人にとっても、このストーリーは魅力的であるようだ。最近の映画やドラマ、小説などで過去の傷つき体験のエピソードが氾濫し、トラウマという文字が躍っているのは、その証拠といえるだろう。
 こうした概念が注目され、関心をもたれること自体、筆者は個人的にいいことだと思っている。なぜなら、そこに救われる人がいるからだ。何らかの社会的な使命はあるのだろう。ただ、ここで問題だと思うのは、現在人気を集めているさまざまな問題解決のための糸口の多くが、個人の内部にあることである。
 昔、諸悪の根源は資本主義社会とされ、さまざまな問題の原因は(資本主義)社会の側にあったとされた。マルクス主義がカッコ良かった時代のことである。いろいろな問題を解決するために、資本主義社会の打倒や調整が不可欠だという分かりやすい見解をもつことができた。このとき、問題解決の方法は明らかであるため、問題を解決するためには、シナリオに即した行動を実践すればよかった。また一部の人々は、「資本主義社会=諸悪の根源」を語るだけでカタルシスを得られていたに違いない。両者は対照的であるとはいえ、現在の状況は、これと同様の極端さがあると筆者は考えている。
 妖怪セラピーは、こうした内にこもりがちな現状に風穴を開けるものであると考えている。個人の感じる苦しみは、その個人の内部に原因があるという考えを強要されてきた私たちに、ちょっとした救いの手を差し伸べるものとして。

内容説明

ナラティブ・セラピーの考え方を分かりやすく解説し、さらに読者が自分でナラティブ・セラピーを実践するための方法を示した入門書。

目次

1章 妖怪セラピーの基本(タネ明かし;社会構築主義 ほか)
2章 ナラティブ・セラピーの思想背景(知と力;知に抹消された物語としての妖怪話;パノプティコン)
3章 妖怪セラピーの方法(フローチャート;妖怪「ぶるぶる」の例 ほか)
妖怪シート(妖怪出没シート;妖怪とわたりあうシート;妖怪分析シート)
妖怪ファイル(ぬらりひょん;やまびこ ほか)

著者等紹介

芥子川ミカ[ケシカワミカ]
1970年代、神戸に生まれる。現在、某大学講師。専攻は社会学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

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乱読家 護る会支持!

2
妖怪セラピー。ちょっと前に、某大学院の学生さんにやってもらいました。私や他人の問題を妖怪が取り付いていることにして、気持ちが楽になったり、解決のヒントが得られるものです。楽しみながら、ナラティブセラピーができます。あ、イグアナの会でやってみる?ん?イグアナに取り付く妖怪さんって、、、、f^_^;)2014/08/04

乱読家 護る会支持!

1
再読。当事者研究もナラティブセラピーの一つに、僕には見えるので、妖怪セラピーと組み合わせれないかとあれこれ模索。。。 妖怪セラピーとは、ナラティブセラピーの一種。ナラティブセラピーとは、社会構成主義、ドミナントストーリー/オルタナティブストーリー、外在化。。。2019/07/04

Red-sky

1
真面目なものなのかなんなのか、「ナラティブ」と「妖怪」というキーワードが並んでいることにものすごい違和感を覚えて手に取ったけどなかなか面白い。半分近くは妖怪の説明だったけど、前半のセラピーの説明は読み応えかあった。誰かに勧めるというより自分の生活を豊かにするための知恵程度なら全然活用可。ってか妖怪に置き換えるかーっと考え出した時点でなんかそれほど重いことではないように思えるのがミソな気がする。2018/05/17

まろすけ

1
ナラティブと妖怪の組み合わせに惹かれて読む。外在化をメインに書かれています。「妖怪(問題)が跋扈する背景について考える。それは、私的・個人的な問題を社会的な問題へとつなげる作業となる」との一文は社会学を専門とする著書ならではの視点。国や地域や家族内の慣行・文化、政治・経済的事情、障害者、異民族、性差、容姿差などが跋扈の舞台か。問題を「個人の内面」のみのせいとするのではなく「環境から受ける影響」に着目する。そして外在化。妖怪セラピー、実践的かと問われればなんともいえない。が、とても楽しい読書体験でした。2015/12/13

かおりんご

1
面白い心理療法だと思った。ただ、自分自身に生かせるかはナゾ。2009/09/06

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