出版社内容情報
2003年5月、ろう学校で「日本手話」による教育を求める人権救済申立が行われたが、その申立を裏づける根拠を言語習得、言語教育政策、言語権などの研究における第一人者たちが論じるとともに、人権救済申立書の全文、さらに申立に関するQ&Aも掲載。
はじめに(全国ろう児をもつ親の会・代表 岡本みどり)
1 言語学からみた日本手話(市田泰弘)
2 ろう児の母語と言語的人権(古石篤子)
3 なぜ二言語教育なのか――言語権の観点から(木村護郎クリストフ)
4 言語権について――国際人権と日本国憲法(小嶋勇)
5 言語抹殺とろう者(トーヴェ・スクトナブ=カンガス著/中村成子訳)
6 学年相応のカリキュラムへ――ろう児に内容が伝わるためのろう教育の基本原理(ギャローデット研究所紀要/澁谷智子訳)
7 水俣学という鏡に映し出す「ろう教育」(板垣岳人)
8 人権救済申立書
9 人権救済申立に関するQ&A(小嶋勇)
付録 人権救済申立とその後(全国ろう児をもつ親の会)
おわりに(小嶋勇)
索引
はじめに 全国ろう児をもつ親の会・代表 岡本みどり
二〇〇三年五月二七日、全国各地のろう児とその親一〇七人が、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)に人権救済申立を行った。申立の概要は「日本手話で教育を受けたい」、「日本手話のできる先生を配置してほしい」というものである。それはつまり「耳が聞こえない子どもには日本手話で授業をしてほしい、わかる言葉で教えてほしい」という当たり前の願いなのだが、わざわざ日弁連に人権救済申立をしなければならなかったのはなぜだろうか?
人権救済申立と同時に出版した『ぼくたちの言葉を奪わないで! ~ろう児の人権宣言~』(明石書店)では、申立にいたるまでの経緯や親の気持ち、そしてろう教育の現状について紹介をした。本書では、ろう児の人権についての理論をさらに深め、国内にとどまらず海外からの文献も紹介しながらグローバルな視点で人権救済申立を検証する。本書は大きく分けて二つの内容で構成されており、前半では今後ろう教育に必須となる言語学などの観点から論じ、後半では申立後、多くの方々から寄せられた「申立の内容をもっと詳しく知りたい!」という声に応えて、人権救済申立書全文とそれに関子訳)という観点から、言語権とろう者の関係に迫った。これは二〇〇三年の「世界ろう者会議」で行われた氏の講演を本書のために文章化した最新の論稿である。日本のろう児が置かれている現状と、世界で話し合われているろう児の言語権に関する認識との間の落差に注目したい。6ではアメリカのギャローデット研究所紀要「学年相応のカリキュラムへ~ろう児に内容が伝わるためのろう教育の基本原理~」(澁谷智子訳)を掲載。これは他の最新論文とは違って一九八九年のものであるが、歴史に残る貴重な資料であることと、アメリカで一五年前に報告されたろう教育の失敗が、現在の日本のろう教育が抱えている問題に酷似していることから、新たに翻訳することにした。聴覚口話法からトータル ・コミュニケーション法へ、そしてバイリンガル法へと移行していった理由が明らかとなる。7では全国ろう児をもつ親の会事務局長・板垣岳人氏が「水俣学という鏡に映し出す『ろう教育』」というテーマで水俣学を通してろう教育の問題点を分析し、本来のあるべき姿への転換を提案する。ろう教育のまっただ中にいる親からの声としてたいへん示唆に富んだ内容である。
後半は、8で、日弁連に提出した「人権救済第一歩が今回の人権救済申立なのである。
本書の執筆者はそれぞれの専門分野の第一人者である。ただし必ずしもろう教育の専門家ではない。それにもかかわらず、私たち「全国ろう児をもつ親の会」からの原稿執筆のお願いを快諾されたのは、日本のろう教育の現状を知って驚かれたからである。それを改善するためならと専門分野の知見を惜しみなく提供してくださった。
小嶋弁護士は、千葉・星・田中弁護士らと共に六年前からろう児のために奔走され、今回は本書の監修を引き受けていただいた。そして、成人ろう者は自らの存在をもって私たち親の心を揺さぶり続けてくださった。彼らのおかげで私たちは“ろう児の人権・人間としての尊厳”について正しく認識できるようになった。また本書の企画・編集にあたっては明石書店編集部に大変お世話になった。以上、すべての方々に心よりお礼を申し上げたい。
目次
1 言語学からみた日本手話
2 ろう児の母語と言語的人権
3 なぜ二言語教育なのか―言語権の観点から
4 言語権について―国際人権と日本国憲法
5 言語抹殺とろう者
6 学年相応のカリキュラムへ―ろう児に内容が伝わるためのろう教育の基本原理
7 水俣学という鏡に映し出す「ろう教育」
8 人権救済申立書
9 人権救済申立に関するQ&A
付録 人権救済申立とその後
著者等紹介
小嶋勇[コジマイサム]
中央大学法学部法律学科卒業。1995年4月弁護士登録(東京弁護士会)、2001年7月勇法律事務所開設、1998年4月から東京弁護士会子どもの人権救済センター相談員。現在、中央大学法学部講師(法曹演習)、日本大学大学院法務研究科講師(公法)
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