内容説明
一九世紀ドイツの哲学者ルートヴィヒ・アンドレアス・フォイエルバッハは一八〇四年七月二八日に生まれ、一八七二年九月一三日に死去した。本書は彼の生誕二〇〇年を記念し、フォイエルバッハの会によって企画出版された書物である。今回、編集にあたったフォイエルバッハの会という組織は、一九八九年、「国際フォイエルバッハ学会」が設立されたことに呼応し、日本における研究者相互の連絡組織として発足した会である。進歩思想の躓くところで、フォイエルバッハ思想は、ひそかにその急所を突く根強さ、しぶとさを秘めている。フォイエルバッハにとって宗教は、終生のテーマ、いつの時代にもつきまとう永続的な課題であった。一八四〇年代の切れ味鋭い批判家というイメージとは裏腹に、宗教意識に深く根ざしたその思想は、きわめてデリケートな性格、他者への篤い気づかいを孕んでいる。自然宗教研究を通して絶対宗教(一神教)をも相対化するフォイエルバッハの「宗教寛容」の精神は、今後、ますますその重要性を帯びてくるであろう。時代を超えて、フォイエルバッハは、宗教に潜む人間の、ひいては自然の奥深さを問うている。奥深いにもかかわらず、いや、奥深いからこそ、他者性を尊重し、相互に共存してゆく道を、われわれはフォイエルバッハと共に模索する必要があるのではなかろうか。この記念出版に収録された論の一つ一つに、そうした問題意識や思いが込められている。
目次
総論 「自然・他者・歴史」へのアプローチ
第1章 自然と理性
第2章 身体
第3章 他者
第4章 同時代思想
第5章 受容と研究