内容説明
桶狭間の戦いから本能寺の変まで、一生涯みずからの支配領域(分国)拡大の戦争に明け暮れる。強い主従意識のもとに家臣を指揮・統制し、抵抗勢力には残虐な殺戮に走り鬱憤を散じた。天下統一に邁進した革命家のごとく英雄視する後世の評価を再考。「天下布武」の意味を問い直し、『信長公記』や信長発給文書などから浮かび上がる等身大の姿を描く。
目次
第1 尾張・美濃平定
第2 幕府の再興と天下
第3 反信長同盟の結成と戦い
第4 一揆を殱滅し、右大将に
第5 瀬戸内の反信長戦線に苦戦
第6 絶頂期へ高揚
第7 流通・都市政策
第8 家臣団と知行制
著者等紹介
池上裕子[イケガミヒロコ]
1947年生まれ。1977年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、成蹊大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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厩戸皇子そっくりおじさん・寺
12
難しい部分は斜め読みしながらの読了だが、やはり学者の書くちゃんとした伝記というのは圧巻。私が信長ファンなら無人島に持って行きたい一冊だ。信長天才伝説の神秘は皆無。天皇を滅ぼすなんてとんでもない。比叡山焼打ちは政教分離ではなく敵対したからというだけ。基本的に残酷。百姓や村とは向き合わない。あくまでも自分の分国拡大がテーマの人。総括の『おわりに』が面白い。私個人としては毛利氏との交渉が興味深かった。2013/03/23
hoiminsakura
8
第五章までは美濃平定、義昭を奉じて上洛~朝倉・浅井、武田、一揆、本願寺との戦いを中心に丁寧に解説。六章は天正9年からのクライマックスで、馬揃での信長の姿が目に浮かぶようだった。光秀の動機については「議論がつきない」とし、この章では多くを語らない。七章で流通・都市政策、最終章で家臣団と知行制と述べられるに連れ、信長の具体的な人となり、人間性のイメージが私の中で形を成してきた。大名に登用された者の多くが尾張出身者であり、光秀と細川藤孝は特異な例で、家臣たちが置かれていた不安定な状態を謀反の原因と推測する。2021/09/09
ハル牧
6
天正の頃、信長の最大版図の中で分国を任せられたのは、光秀と藤孝を除けば一門と濃尾以来の家臣ばかりであった。一般的な信長のイメージとは合わない年功序列の家臣団と、能登や播磨、荒木村重らの事例を示すことで、本能寺直前の光秀の立場の危うさを浮き彫りにしている。版図拡大の最前線で外様が勲功を挙げても、その分国支配を任せられるのは濃尾以来の譜代でしかなく、外様はその後大抵捨てられる。藤孝には古今伝授があったかもしれないが、光秀には何があっただろう。松永久秀や荒木村重の後に明智光秀が続くのは当然のように思えてくる。2022/01/26
電羊齋
5
『信長公記』及び信長発給文書並びに先行研究を元に、信長は「英雄」や「革新者」などではなく、自らの「分国」拡大のため状況に応じた実利的な政策を行っていただけであることを地道に記述する良書。検地・軍役制度の整備ではむしろ時代遅れな面もあったという。また、文書上の「天下」という言葉の持つ意味の変化についての考察も面白かった。そして、信長への頑強な抵抗と外様家臣の度重なる謀反は一門・譜代重用、信長への絶対服従という信長の戦争、分国支配のあり方が生み出したもの、つまり信長自身が招いたものだとする著者の指摘には納得。2014/05/06
奇天
5
近年、信長人気隆盛の中で虚像が巷間に蔓延している。それに対して歴史学の側から冷静に現時点での研究の成果を述べた好著。ただし、関所撤廃や楽市政策に対する経済学的見地からの評価や、家臣団経営に対する組織論からの見方も欲しかったか。「おわりに」で述べた「百姓や村と正面から向き合おうとしなかった権力」である点も感傷的に見るべきかどうかも疑問。そういう権力だったからこそ出来たという積極的評価もできるだろう。2013/04/11