内容説明
近年とみに人気が高まっている歌川国芳による猫の浮世絵。それらは「猫好き」でなければ愉しめないものなのか。一枚の絵に流れ込むさまざまな水脈を解きほぐし、猫絵の図像学から、中世・近世の社会や文化を透かし見る。史料としての絵画が語る歴史に耳を傾ける、その手の内を明かす。
目次
1 猫絵の導き(一枚の刷物―歌川国芳画「鼠よけの猫」;賛もしくは口上書;猫の視線の先;モチーフが指示する行動;写実性を語るレトリック ほか)
2 首綱から放たれる(猫の図像と歴史;「牡丹花下睡猫児」;文様に隠されたイメージ連鎖;蹴鞠との連想;『源氏物語』若菜上の絵画化 ほか)
著者等紹介
藤原重雄[フジワラシゲオ]
1971年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。専攻、日本中世史。現在、東京大学史料編纂所助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
冬見
15
薄くて読みやすいが、注釈が丁寧で図版や古典史料が数多く挙げられているので史学初心者にも分かりやすい。日本における猫絵の定型と中国の「耄耊富貴図」との関係、猫と蹴鞠と『源氏物語』「若菜」の巻との関係などを解説。2016/12/14
yumiha
8
猫好き必読の本かな~なんて期待は裏切られた。ワタクシ的にはハズレだった。やっぱ絵を取り上げるのなら、カラーにしてほしい。国芳が下絵を使い回していたとか、犬ではなく猫に紐をつけていたとか、という知識は得たけれども、なんぜ私の苦手とする学術論文(でしょ)の本では、決して読み直そうとは思えない。口直しに『ねこと国芳』(金子信久)を再読しよっと。2014/11/20
∃.狂茶党
5
いわゆる新書などの歴史読み物に近いのですが、質も高けりゃ密度も違う、あのときにイラっとする、過剰なわかりやすさや、くだけた物言いもない。 これだけで完結しているにも関わらず無数の入り口も開かれてる。 外来種である猫は、愛玩動物として扱われつつ、ネズミを捕まえる益獣であり、そこから作物や経典を守る神にも転じ、魔除けの呪符にもなっていく。 そのほかの時代、地域の、あるいは別の視点からの猫の歴史も気になるところ。 美術史の専門家だと文学的な寓意に引っ張られたり、技法の話がありますが、そこら辺はカットされてます。2021/12/13
AKa
5
猫は完全に釣り餌であり、日本の芸術鑑賞スタイルを支配する、「さかしらな知識は必要なく、素直な心でみつめてみましょう」という「印象派的絵画鑑賞」へのプロテストを意図するものである。一連の分析は一般的な愛好家にとっては「どうでもよいことであったかもしれない」と著者は言うが、他方歴史研究においては絵画や写真を感性や直感だけでなく、分析をきちんと行うべきなのではないのかという指摘もある。この点、南和男氏の「添え物」(『幕末維新の風刺画』だったか)という批判はまだまだ有効であると言わざるを得ないだろう。2019/08/11
葉鳥
5
「猫絵」に惹かれて。想像していたのとは少し違った。おそらく著者の言いたかったことは半分も理解していないが、歌川国芳の猫好き、ネズミ避けとして猫絵が使われていたことや牡丹と蝶と猫が吉祥画であったことなどの知識は身についた。また、源氏物語と絡んだ話や猫の放し飼い令あたりの話は興味深かった。歌川国芳の作品をカラーで見てみたいと思う。2015/01/27