内容説明
人間の世界の時間的変遷を描くのが歴史学である。しかし、歴史は、人間世界の中で完結しているわけではない。その世界の外には、自然という広大な世界がそれを囲んでいる。ヒトは古来それを神といい、懼れ、敬ったが、文明が展開すると、人間はヒトの世界に目を向けるだけで、この外に存在する自然の世界を時として忘れた。二十世紀の末、人間の傲慢がさまざまな災害をもたらしたとき、自然を再び自覚した。そのとき、自然と人間の関係を問題とする歴史学、「環境歴史学」が登場してくる。はたして「環境歴史学」とはどのような学問であろうか。どのような可能性をもっているのであろうか。
目次
1 新しい歴史学としての環境歴史学(20世紀末の歴史学の変貌と環境歴史学の登場;環境歴史学の基礎となる現地調査;環境歴史学の方法論)
2 環境歴史学による新しい歴史像(水利潅漑史料から歴史を読む;環境歴史学から絵図を読む―「陸奥国骨寺村絵図」の世界;ホタルからみた里山の成立;環境歴史学からみた大分の磨崖仏;環境歴史学からみた出雲大社;里海の成立)
3 文化財学としての環境歴史学(圃場整備事業と荘園村落遺跡調査の登場;荘園村落遺跡調査から環境歴史学へ;文化財学としての環境歴史学)
著者等紹介
飯沼賢司[イイヌマケンジ]
1953年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程退学。専攻、日本古代・中世史。現在、別府大学文学部教授
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感想・レビュー
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ハチアカデミー
5
「自然と人間の意識化した歴史学」の成立背景とその可能性を論じる。文字資料ではなく、灌漑調査や地名の調査、信仰調査などによって、文字資料以外から歴史を考えていくことで、これまで研究対象となっていなかったものの考察や、異なる観点からの研究が可能になる。いまも残る神事なども、歴史を考える材料となる。新しい歴史学の手法というが、むしろ新しいままではいけない。「歴史」が国家の正史を目指すのではなく、かつて生きていた人々の姿の再現を求めるのであれば、バイアスのかかりやすい文字資料だけでは不十分だと感じた。2015/12/21
なつき
3
『日本史リブレット23 環境歴史学とはなにか』読了。さいきん歴史系を学ぶときによくお世話になりつつある、リブレットシリーズです。環境歴史学って概要は知っててもかなり自分のなかでふわっとしてたので、本書で捉えられてよかった。『おもひでぽろぽろ』と絡めた考察は一読の価値が高い……。2018/04/21
こずえ
0
草山の語る近世とセットでよむと環境の歴史についてよくわかります
星規夫
0
小冊子戦術第十七弾。環境歴史学という学問が、欧米ではどのように考えられているのかを知りたい。2012/08/05