内容説明
西洋美術の頂点を示すバロック美術。それは燃え上がるようなキリスト教信仰が生み出した最後の輝きであった。理性ではとらえきれない幻視をいかにリアルに現前させるか。現実的なイリュージョンにいかに神秘的な聖性を付与させるか。こうした矛盾が止揚され、壮麗で幻惑的な芸術が大々的に追求されたのである。血みどろの殉教、劇的な回心、恍惚とした法悦といった主題的流行と並行させつつ、バロック美術の生成から終焉にいたる過程を説き明かす、単なる概説を超えた画期的な書である。
目次
聖性とヴィジョン
1 殉教図の時代
2 回心の光カラヴァッジョ
3 法悦の劇場ベルニーニ
著者等紹介
宮下規久朗[ミヤシタキクロウ]
1963年生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院人文科学研究科修士課程修了。専攻、イタリア美術史。現在、神戸大学文学部助教授
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感想・レビュー
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kaori
30
バロックという美術様式がいかに生まれ、いかに発展していったのか。少ないページ数ながらも、キリスト教美術の極致終焉の変遷がよく分かる。「見る」というただそれだけで、何を感じさせるのか?それって一番単純だが、一番難しいエンターテイメントなのであろう。でもだからこそ美術に魅かれる。2016/06/16
kaoru
12
薄い本で、図版も残念ながら白黒であまり見やすいとは言えない。だが著者の専門であるカラヴァッジョの絵画の分析、対抗宗教改革やそれに関わった画家・彫刻家の作品紹介など一冊に貴重な情報が山ほど詰まっている。宗教劇を見事に観衆に提示して見せたベルニーニの《聖テレジアの法悦》の解説。「近代科学に酔った人類は徐々に神の存在を忘れて信仰の価値を軽視していったが、今まで述べてきたバロックの聖堂にはいると、今なお神や奇跡のヴィジョンがたんなる蜃気楼ではなく実在し、神の存在や信仰の力を確かに実感することができるのである」2019/03/11
マカロニ マカロン
8
個人の感想です:B。先日、八王子市の東京富士美術館で開催中の「遥かなるルネサンス」展を見てきた。1585年、ローマ教皇と謁見を果たした天正遣欧少年使節の足跡を追う展覧会。使節を派遣したのはイエズス会の宣教師たちで、彼らが来日するきっかけとなった反宗教改革運動に興味を持った。偶像崇拝を排斥しようとしたルター、カルヴァンらの改革派とそれに対抗するための反宗教改革。本書ではバロック美術の成立過程や代表作の意味を分かりやすく解説されていて、馴染みにくい宗教美術品への理解が深まった。画像が小さく、白黒なのが残念。2017/10/07
SK
3
259*バロック~٩(๑❛ᴗ❛๑)۶2019/10/13
カラス
1
西洋絵画に無知な自分でも普通に楽しめた。固有名詞はなるたけ押さえられており読みやすい。そして、「二重空間」「不在効果」といった描き方とそれが観者に与える効果でもって大づかみに歴史を説明するという方法は、とてもわかりやすい。また、ただ単に史実を羅列するわけではなく、きちんとストーリーがあるのもよい。美術で扱われるテーマやモチーフの説明はほぼスルーして、「聖性とヴィジョンの視覚化の追求過程」(P3)一本に絞ったのがこの本の良いところだと思う。2020/08/01