内容説明
西洋と中東で世俗的な感性が成った過程を追い、「近代」を構成する主体的個人の言説と国家権力のあり方、世俗主義の観念、実践、政治的形成を論じる。超分野的な話題が織りなす文明論・制度論。
目次
世俗(世俗主義の人類学とはどのようなものであろうか?;エージェンシーと痛みについて考える;残虐性と拷問について考える)
世俗主義(人権で「人間」を救済する;ヨーロッパにおける「宗教的少数派」としてのムスリム;世俗主義、国民国家、宗教)
世俗化(植民地時代のエジプトにおける法と倫理の構造転換)
著者等紹介
アサド,タラル[アサド,タラル][Asado,Talal]
1933年サウジアラビアに生まれる。幼少時インドに移住し、英国エディンバラ大学を卒業、スーダンでフィールド・ワークを行ない、1968年にオックスフォード大学で博士号取得。現在、ニューヨーク市立大学大学院・人類学特任教授
中村圭志[ナカムラケイシ]
1958年、北海道小樽市に生まれる。北海道大学文学部卒業、東京大学大学院修了、宗教学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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roughfractus02
8
著者によれば、世俗とは、近代に宗教に対置するように形成され、宗教自身も意味づけを変えつつある社会の動的編成の一部である。著者は、外部を設定し自らを位置付ける世俗概念の形成過程に非対称的な力の編成を見る。本書はこの非対称性を、現代の世俗主義的なヨーロッパにおいて、イデオロギー的本質を生活実践の中に受け入れられたキリスト教とその本質が不在のまま受け入れられたイスラム教との間に見出す。キリスト教世俗主義のアイデンティティを画する外部としてのイスラム教という関係性は、社会的な不均衡を作り潜在的な暴力性を蓄積する。2024/04/29
メルセ・ひすい
2
14-05 赤14-08 ★請う向学者 本格的学術書・テーゼ… 「非西洋に対する西洋の言説批判」本書の射程…論考は政治学・宗教学、ウィットゲンシュタイン的哲学。社会人類学者にとっての「宗教」とは⇒対象として普遍的本質を論じる熱意を避けてきた。。シカシ、敢て本書は「世俗」をアサド流に果敢にかつ、丹念に啓蒙主義や今日のリベラリズムを含む「西洋の伝統」と「イスラムの伝統」との間にあるズレの構造に挑む…概念問題に関して著者の洞察にウィットゲンシュタインの手法が明らかに見て取れる。(*_*)。 2010/10/15
Kan T.
0
14頁 「暴力的行為の動機が「宗教的イデオロギー」にあると考える者は、暴力がもたらす苦難を憂慮する限りは、宗教的言説の検閲をーー少なくとも宗教的言説の公共政策作成の場への侵入を防ぐ手立てをーー支持せざるをえないと論じる。だが、世俗主義者が懸念しているのが、苦痛と苦難それ自体であるのか、それとも宗教的暴力に原因を帰すことのできる苦痛と苦難であるのかは、必ずしもはっきりしない。」 身体論についても書かれている本だとは知らなかった。2021/05/02