出版社内容情報
ブッカー賞作家が自らの体験にもとづいて小説化した、戦後南アの暴力がひそむ日常生活の冒険。
内容説明
嫌悪の対象としての父親、愛憎なかばする母親のもと、学校ではおとなしく家では暴君のようにふるまう「その子」の引き裂かれた感情に入り込み、五十年前の南アフリカの、暴力がひそむ日常生活を、今日の問題としてみごとに蘇らせたファン待望の自伝的物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
風に吹かれて
19
1997年発表。いくつか彼の作品を読んだ者が読むクッツエーの自伝的小説であると思う。「その子」という三人称を用い現在形で語られる小説。南アフリカ出身ということを抜きにしても興味深かった。「その子」にとって存在が感じられない父親、疎ましい母親。容易に鞭を使う教師たち。鞭を使われることが嫌なので懸命に勉強して良い成績をとる。父方の牧場での土の匂いで得るひとときの安らぎ。生を受けたこの世に自分の居場所が得られるのだろうかという周囲への漠然とした違和感。「個」を描いて本作に「少年時代」の普遍的なものを感じた。 2020/01/28
funuu
14
自分が子供を持つまで待つことね。そうすればわかることよ。彼がそうしようと思えば(決してそうするつもりはないが)、母親の手中に安心して身を委ね、これからの人生を彼女に託して生きることもできる。母親の世話の手堅さを疑う余地がまったくないため、逆に、彼は母親に警戒心を抱き、決してくつろいで身を委ねず、そのチャンスも与えないのだ。 2016/04/15
慧の本箱
5
階級的にも経済的にも宗教的にも あらゆる場面で上から下からの目には見えないラインが引かれ その閉塞感のなかで自我に目覚めていく少年の やり場のない想いが じんわり迫ってきます2008/10/06
かつみす
4
ケープタウンから家族と共に郊外の街に移り住んでから、再びケープタウンで暮らすようになる13歳頃までを綴る。いちおう自伝だけど、「私」ではなく「彼」が使われ、突き放した距離からひりついた少年時代が振り返られる。母へのぎこちない愛情、そして人生に挫折した父への反発が印象的。オランダ系(アフリカーナ)、イギリス系、そして土着の黒人(カラード)が混在した南アフリカの言葉・宗教・歴史の複雑さも。自分も小さい時分はこんな気持ちになったかな、という共感と、日本とは異質な社会背景への興味。その両方に惹かれながら読んだ。 2016/02/06
yanoms
3
これは全ての男の少年期だ。クッツェーが「自分の親がもっと普通であればよかったのに」と思うように、「自分の親がもっと普通でなければよかったのに」と思っていた人は多いと思う。これは全ての子供たちの願望であり、全ての子供たちのモラトリアムだ。大地に憧れながらも、大地に拒絶される。母親を否定しながらも、母性に抗えぬ少年の物語だ。2011/02/08