出版社内容情報
近代学問の女王たる数学は20世紀に未曾有の変容と発展を遂げた。その全容を掌握するのは専門分化のゆえに極度に困難であろう、しかし、その思想的・社会的な枢要な働きのゆえに、その概要はなんらかの形で理解しておかねばならない。
本書は、まず19世紀数学の延長上で,現代数学がいかなる形態をとるようになったか概観する。そのうえで、現代数学の認識論的理解の試みとして数学基礎論論争に焦点をあて、その論争からいかなる経緯でゲーデルの不完全性定理が着想され、またウィトゲンシュタインらの多元主義的数学観が定着していったのかを跡づける。さらに、現象学的な哲学的背景のもとで、ワイルの数学思想がいかに生成・発展を遂げたかをたどり、20世紀の最も深い数学の根底をかいま見る。今度は認識論的考察から一転して社会史的方向に眼を向け,今日の「パックス・アメリカーナ」政治体制を形づくった1940年代以降のフォン・ノイマンの数学研究の足跡を追い、原爆・水爆などの軍事技術とコンピューターがいかに交錯しながら発展したのかを探究する。
現代の思想と社会に先鋭に切り込もうと数学史家が渾身の力を込めてなった力作。
書評情報:
野家啓一さん/日本経済新聞 2001.5.27
内容説明
現代思想の生成過程に数学を介して立ち入り、数学基礎論論争がいかに闘わされ、数学が現象学といかに交流し、コンピューター社会がいかにして誕生したか探る。
目次
序論 思想としての二十世紀数学
第1章 数学基礎論論争(一九三〇年秋のケーニヒスベルク会議;数学基礎論論争の構図 ほか)
第2章 ヘルマン・ワイルの数学思想(なぜヘルマン・ワイルなのか?;ゲッティンゲンの数学的学統の中のワイル ほか)
第3章 ジョン・フォン・ノイマン―数学者と社会的モラル(「数学者」―純粋数学から応用数学へ:フォン・ノイマンの数学的略歴 ほか)
著者等紹介
佐々木力[ササキチカラ]
1947年3月、宮城県に生まれる。1969年、東北大学理学部数学科を卒業。のち、同大学大学院理学研究科博士課程(数学専攻)を経て、1976年から80年まで、プリンストン大学大学院に留学してトーマス・S・クーンらに師事し、“Descartes’s Mathematical Thought”でPh.D.(歴史学)取得。1980年、東京大学教養学部講師、83年、同助教授、91年、同教授。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は数学史を中心とする科学史・科学哲学・国際科学史・科学哲学連合科学史部門評議員。国際数学史委員会執行委員。日本科学史学会欧文誌編集委員長。主要著書に『科学革命の歴史構造』全2巻(岩波書店、1985年;講談社学術文庫、1995年)、『現代数学対話』(弥永昌吉との共編著、朝倉書店、1986年)、『数学史対話』(中村幸四郎との共著、弘文堂、1987年)、『科学史的思考』(御茶ノ水書房、1987年)、『近代学問理念の誕生』(岩波書店、1992年;1993年サントリー学芸賞受賞)、『医学史と数学史の対話』(川喜田愛郎との共著、中公新書、1992年)、『生きているトロツキイ』(東京大学出版会、1996年)、『科学論入門』(岩波書店、1996年)、『学問論―ポストモダニズムに抗して』(東京大学出版会、1997年)、『マルクス主義科学論』(みすず書房、1997年)、『科学技術と現代政治』(ちくま新書、2000年)
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nbhd
いたりん
Yuto Matsushita