内容説明
本書は、はるかルネサンス以前の民衆演劇の遺産を掘り起こし、その新しい視角からシェイクスピア劇のドラマトゥルギーを解明している。著者は、イギリス民衆劇の歴史、ミームス(古代の大衆演劇)に始まり、民俗劇、聖史集団劇、道徳劇を経てエリザベス時代へと至る流れを辿りながら、これらの演劇的伝統がいかに、またどれほどシェイクスピア劇を豊饒なものにしたかを跡づける。
目次
1 ミームス
2 民俗劇と社会慣習
3 聖史集団劇
4 道徳劇とインタールード
5 エリザベス時代の演劇
6 シェイクスピアの演劇―伝統と実験
補章 観客とともに笑う―『ヴェローナの二紳士』とシェイクスピア喜劇の民衆の伝統についての覚え書き
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
11
シェイクスピア劇に民衆演劇の伝統が生きてることは比較的新しい知見で、前世紀に入って再発見されたものらしい。いったんは忘れられたシェイクスピアが18世紀に再発見されたときにこの伝統と切り離された。民衆演劇というのは当然、民衆と非民衆という社会分化を前提とする。役者と観客、舞台上の世界と平土間の間に溝がある。多様な道化はこの溝を埋める機能を果たす。エリザベス時代の社会的流動化を背景として、シェイクスピアは民衆演劇のこの古い発明を演劇の内部に組み込んだ。道化のリアリズムは劇外の視座ではなく劇内の一要素となった。2023/04/29