出版社内容情報
コロナ時代に入って変貌する世界を、日常の喪失、貧困の露出、統制の強化など、人倫の深みからの観点で描き尽くす。
内容説明
人間とはなんであり、果たして、なんであるべきなのか?戦争と専政の人類史が、いままたCOVID‐19という荒ぶる「まろうど」を迎えた。人倫の根源が抜け落ちた危機の7年間…凝視し、思索し、疑いつづける精神の結晶!
目次
しだいに剥きだされていく恐怖について
足元の流砂
次の「まさか」を起こさないために
オババが消えた
おれより怒りたいやつ
青空と気疎さ
「戦間期」の終わりと第3次世界大戦
「事実」の危機
時の川の逆流
70年〔ほか〕
著者等紹介
辺見庸[ヘンミヨウ]
1944年宮城県石巻市生まれ。70年共同通信社入社、北京特派員、ハノイ支局長、外信部次長などを経て96年退社。78年中国報道により日本新聞協会賞受賞、87年中国から国外退去処分を受ける。91年『自動起床装置』で芥川賞、94年『もの食う人びと』で講談社ノンフィクション賞、2011年詩文集『生首』で中原中也賞、12年詩集『眼の海』で高見順賞、16年『増補版 1★9★3★7』で城山三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
136
コロナ時代のいま、哀しいかな、「生は特権化された人々の権利にすぎない」のかもしれない。貧しき人びとは、にもかかわらず、コロナの死線を越えて日々働きつづけなければならない。でなければ、今日を生きながらえることができないからだ(本文より)コロナ時代については多くはなかったが、「間違った戦争」を認めようとしない首相、「傍観者効果」の怖さ、どこまでも「善」を求められる天皇、やさしさの裏の怖さなどいろいろなことを考えさせられた。難しいかな、と思ったけどとても読みやすかったです。2021/08/15
hasegawa noboru
14
2014~2021年3月月刊誌に連載されたエッセイの集成。時事に触れて綴られた思考の書。警句に満ちる。暴走をかさねる自民党現政権、それをゆるし支える社会と民衆「非言語系の共同体「世間」」のこと、介護老人保健施設に通い始めた自身の老いのこと、天皇について、死刑制度について、新型くるってきたかをコロナ禍の情勢について、等々。底なしの気鬱と絶望と憤怒をもって、躰で語る辺見庸の姿勢は不変だから、時代がどれほど狂ってきたかを教えてくれるようだ。共感をもって同意する。が、じじー世代の繰り言として無視され冷笑されていく2021/05/16
kentaro mori
6
久しぶりの時評集。辺見庸はいつだって変わらない。変わってしまったのはぼくたちだ。いつの間にか奴隷になってしまった、そしてそれに何の疑問ももたなくなってしまったのだ。読むといつも反抗心をかきたてられる。永遠の不服従のために読む。⚫️わたしたちはいま、なにものかにあからさまに弾圧されているのではない。わたしたちの乏しい内面が、わたしたち自身を執拗に抑圧しているのだ。まるで真の不幸をのぞむかのように。2021/04/16
田中峰和
5
辺見庸は変わった人である。共同通信社のエリート記者から芥川賞までとっているのに、50代半ばで日雇い労働者に転身。空疎で無責任な言葉が嫌いなのだろう。この本には戦争法からコロナまでの7年間の思いが綴られている。民主主義から国際情勢、憲法から天皇制、東京五輪とコロナ問題など、思うところを縦横無尽に語っている。「『天皇主義』宣言と思想的退行」の内容は日教組教育を受けた世代には得心できる。明仁天皇夫婦の人気は絶大で、その波に乗る知識人まで宗旨替えして天皇崇拝者になる。これを思想的退行と呼ぶ辺見はさすが筋金入り。2021/07/18
魚53
4
深いところから響いてくる言葉。一つ一つの事象を丁寧に目をよく凝らして見よと教えてくれる。「ほら、こんなふうになっているじゃないか」というように。「もっと気をつけておいた方がいい。もっと怒ることなんじゃないのかい。」と。読み終わるのが惜しい。こういうふうに見方を教えてくれる人は、なかなかいない。2023/02/19