内容説明
単刀直入を身上とする「鈴木君」は、道ゆく洋傘の女性に一目惚れし、３０分後には結婚の約束を取りつけた。がむしゃらに夢を追う男の生きざまをユーモラスに描いた久米正雄の『求婚者の話』。下宿屋の娘と関係を持ってしまった青年が宿の「マダム」の術中にはまり、次第に追い詰められていく話（ジョイス『下宿屋』）。言いわけばかりしている野球選手「アイク」に美しい恋人ができ、試合でも大活躍！（ラードナー『アリバイ・アイク』）。結婚をめぐる珍騒動、おかしくて胸をうつ物語。
著者等紹介
久米正雄［クメマサオ］
１９８１‐１９５２。長野県に生まれる。一高・東大で菊池寛、芥川龍之介らと出会い、同人誌で競い合う。学生時代に戯曲『牛乳屋の兄弟』が話題になる。代表作に『受験生の手記』『虎』など
ジョイス［ジョイス］［Ｊｏｙｃｅ，Ｊａｍｅｓ］
１８８２‐１９４１。アイルランドの首都、ダブリン生まれ。今では２０世紀を代表する傑作とされる『ダブリン市民』や『ユリシーズ』だが出版まではトラブル続きで困難を極めた
ラードナー［ラードナー］［Ｌａｒｄｎｅｒ，Ｒｉｎｇ］
１８８５‐１９３３。アメリカ・ミシガン州に生まれた。スポーツ記者として全米に名を馳せ、臨場感と人間観察にすぐれた記事はヘミングウェイら多くの愛読者をもった。「野球もの」をはじめ優れた短篇を残し、ヴァージニア・ウルフなどが高く評価した（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モモ
42
久米正雄『求婚者の話』法科大学生の鈴木君は窓から見た女性に一目惚れし、30分後に結婚を申し込む。それで上手くいくのだから凄い。だが同じような若者が現れると、すげなく断る。確かに真似されたようで嫌かも。ジョイス『下宿屋』ムーニー夫人の娘と下宿人が恋に落ちる。二人の歳の差はあれど、見どころある男の人なので逃すまいとするムーニー一家が力強くていい。ラードナー『アリバイ・アイク』いつも言い訳ばかり言う野球選手のアイク。婚約者が去ってしまい、チームメイトが仲をとりもつも懲りないアイク。人の世が少し愛しく感じる一冊。2022/11/21
Y2K☮
37
三人とも初読。久米は芥川の親友というイメージのみ。漱石の娘に失恋した経験を題材に書きまくって開花したとか。でもその経歴を知って今作を読むと結末で醒める。力量は確かだが、この陳腐さは芥川の予測不能な才気の華と並べたらどうしたって霞む。ジョイス「下宿屋」は結婚を巡る男と女（母＆娘）の暗闘をむき出しにした良作。「男は一時間後を女は一年後を考えている」という歌詞を思い出した。でも昔も今もこんな男は少数かもしれない。ラードナー「アリバイ・アイク」はユーモラスな中に鋭い人間観察の妙味。もっと読みたいと思わせる匠の技。2016/01/22
臨床心理士 いるかくん
27
3篇から成る短編のアンソロジー。どの作品も素晴らしく、バラエティに富んでいるが、あえて好みを言えばラードナーの「アリバイ・アイク」が好き。2014/02/13
神太郎
25
結婚に関する短編である。三者三様の展開で面白い。一目惚れして、30分後に求婚しにいく鈴木くんの単刀直入っぷり。そして、内容も古き日本の感じ。時が経ち自分もまた同じような展開を味わうが……。そこ断るんだね。まぁ、言いたいことは分かるけども……。ジョイスの下宿屋は男的には生きた心地がしないわな～。アリバイ・アイクは言い訳の多さもさることながら実にそれが軽妙なのだ。その言い訳が恋仲になった二人に破局の危機を引き寄せる。素直に喜べば良いのにアイク。だが、最後はどうやらハッピーエンドになりそう。実にアメリカ的だ！ 2019/10/07
鯖
20
久米正雄「求婚者の話」ジョイス「下宿屋」ラードナー「アリバイ・アイク」の結婚にまつわる三篇。「求婚者の話」が自分がするのはいいけど、娘がやられるのは許さねえという身も蓋もない話だった。でも描写がホントいい。奥さんに一目ぼれするシーンで蓮のように開いた洋傘をもった奥さんが「白い花の底から、一双の黒い眼が、意外の潤みを帯びてじっと見上げた」って文章が映像でぶわって浮かんできた。しかし人間て自分勝手なモンだなあ…。 2021/06/20
