感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
またの名
12
都市が一つの軍事要塞としてひとりでに機能する自動化の夢は、馬が運搬具で象は戦車やトラクター、鳩をメディアとみなす時から始まり、障害者すらも利用可能な部品にして組み込む国家機械へ発展。技術の加速が幾何学的な地政学を無意味にするほどゼロ距離を実現した地球上では、すべての表面が接触してるかのようになる。速度の無限増幅により警報がもはや役に立たない瞬速のうちに奇襲してくるミサイルに対して、国家首脳は迎撃の決定権を下級兵士に、やがて自動装置に委ねざるを得ないと指摘。そして予見される戦争機械という完全自足の絶対精神。2017/10/06
白義
11
目眩がするようなイメージの奔流、アイディアのヒントが詰まりに詰まった本。速度を軸に政治や都市、軍事を語り、やがて世界の管理・動員化、つまり軍事化と速度固有のメカニズムによる加速で地理という概念が無効化、地政学から時政学への移行を示唆する。現代における戦争機械の駆動の様子をそのまま文章化したような文体はなかなか歯ごたえがあるが、尋常じゃない面白さ。伊藤計劃の虐殺器官が好きなら必読だろう。ヴィリリオは今改めて読まれるべき軍事史家だ2012/01/26
swshght
7
都市/政治/戦争は「速度」を媒介とする。交通機関や道路網は、生活環境に「速度」を発生させるための産物だ。これを機に、停止していた空間に〈非-場所性〉が生成し、空間の優位は「時間」の優位へと変容する。「速度」の導入により、伝達や運搬などの「運動」を必要とする情報および物質は、迅速かつ効率的に機能するようになる。ここでの「迅速に」という副詞は政治と戦争のあらゆる局面で重要となる。判断、決定、破壊などの目的を達成するためには、運動性を備えるあらゆる動作-伝達、運搬、動員、攻撃-が「迅速に」遂行されねばならない。2012/10/15
大ふへん者
6
地政学から時政学へ。速度体制=距離の短縮→空間の否定へと向かう。これは同時に時間体制=時間の短縮→領土の否定であって、「非-場所性」の政治へ移行する。前と後の観念は未来と過去にとって代わり、「現在」という概念は意志決定の瞬間性の中へと消滅する。p.201「統治はもはや予測とシミュレーション、シミュレーションを記憶することでしかない。」私も全く同じようなことを考えていたので、タイムリーな内容だった。2013/12/27
Ecriture
5
道路網や要塞などの地理・空間的要素を速度や時間の観点から分析し、権力者は速度を管理することで民衆を統治してきたことを明らかにする。突撃による急速な死から、戦争の全面戦争化による緩慢な死への移行により、誰もが戦争機械に奉仕する意思なきゾンビ(生物工学的身体)へと化したという指摘がおもしろい。核・ミサイル兵器の速度と精度はいまや政治の関数であり、生命とは駆け抜ける速度次第のものである。内容ではなく流通・運搬の速度が市場での価値を左右するように。個人的にド・シャルダンの戦争・宗教論への言及が役立った。2012/08/29