内容説明
『銀の匙』の背景をさぐる。日記体随筆とは何かを追求し、作家中勘助の全体像を求めた話題作。
目次
1章 美しい母と「娘」―江木万世と妙子
2章 「娘」と「父」の変容―猪谷妙子
3章 短く長い三十五年の生―『猪谷妙子伝』と『妙子への手紙』
4章 兄と「姉」
5章 結婚―鎮魂と再生のために
6章 『銀の匙』の背景
第7章 『銀の匙』―「男らしさ」のない世界
8章 漱石と勘助の文学―『銀の匙』の評価をめぐって
9章 愛と家族制度―『提婆達多』から『犬』へ
10章 「女の子」たちと独居時代
11章 “愛読者”と日記体随筆
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そのじつ
16
fonfonさんからのおすすめ本。これ、めちゃくちゃ面白かった!中勘助の『犬』が面白かった!と喜んでいた私に本書を勧めてくださったfonfonさんの慧眼に感服する。ほんと、こういう本が読みたかったんです!『銀の匙』の中勘助が、8歳の女の子を恋人のように扱いベタベタしまくる導入の衝撃!その後、彼の過酷な半生を知るにつけ、初めの衝撃を忘れて同情と憧憬ムードに転じるも、また終盤にあらわれるこのテーマ。富岡多恵子にこうまで語られると、いままで不問にしてきた人々の気持ちも気になる。言わぬが花ということだろうか。2018/05/27
三柴ゆよし
13
中勘助の短篇「犬」は偏愛の域を超えて、私の強迫観念のようになってしまった小説だが、作者の生涯については無知だった。年の離れた兄との異常な確執、伯母との思い出、義姉、友人の妻娘、愛読者たちとの多岐にわたる奇妙な疑似恋愛関係など、極めて複雑な人生を送った人であり、富岡多恵子はそうした中の実人生を丁寧にたどるとともに、人生から作品への照射の形跡をたどる。ほんとうを言えば、私はこういう小説の読み方を好まない。富岡の作家としての才気煥発のため、牽強付会に思える部分も、強引に納得させられてしまった気がしないでもない。2020/05/12
nai
3
3月7日開始~8日読了。「島守」が予想外に気に入ったのでもっと作者の事が知りたくなったので。幼女へのラブレターとか「ぼくのペット…」というのは聞いていたけど、この本のおかげで全容解明?とまでは行かないけど大筋納得。私はひねくれているからか素直に愛情とは取れない。ちょっとそれどうなのと引いてしまった。けれども他にも家族との屈折した関係など彼の人間関係には更に興味が出てきた。この本ではあまり言及がなかったけど次は「夏目先生と私」を読んでみたい。2011/03/08
藍鼠
3
中勘助は「鳥の物語」ばかりを偏愛しておりましたが、見方がかわりました。変に惹かれ、そして認め難かった「提婆達多」「犬」を新鮮な気持ちで読み返したい。2010/10/02
cham_dog
3
現在、『銀の匙』以外はなかなか手に入らないけど、図書館辺りで『提婆達多』『犬』『菩提樹の蔭』辺りを漁って欲しい。それからこれを読む、と。作家研究の面白さに気付かせてくれる良書。2009/05/13