出版社内容情報
フロイトは大のイタリア通であった。本書は彼のイタリア体験を膨大な書簡等から再構成、精神分析理論に刻印された長靴の半島の楔を明かす刺激的な一書。上質のイタリア案内でもある。
★平成21年「読売文学賞(評論・伝記賞)」を受賞。
内容説明
フロイトは大のイタリア通であった。鉄道恐怖をかかえながらも、生涯で二十回以上も長靴の半島へ足を踏みいれている。そして驚くことに、『夢判断』をはじめフロイトが精神分析理論を構築する重要な契機のことごとくにおいて、イタリアが大きな影を落としている。本書は、旅行中の膨大な書簡からフロイトのイタリア体験を再構成し、芸術強迫、考古学偏愛、骨董蒐集、食通、買物好きなど、その旅の内実を徴候的に読み解いたうえで、フロイトの主要テクストを詳細かつ大胆に検討する。
目次
イタリアからの便り
「イタリアへ向かって」/「生殖器」
「石は語る」
レオナルドとミケランジェロへの挑戦
イタリアのフロイト―カトリシズムとファシズムの狭間で
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
暗頭明
3
ブダペストにいるフェレンツィのもとに、《モーセ》の全身が画面いっぱいに写っている絵葉書(図60)が送られてきている。そこにはただ、彫刻の足元に、1913年9月13日の日付と「拝復、ミュンヘンでの会議については君とまったく同意」(6 :506)とだけ書かれているのである。「ミュンヘンでの会議」というのは、その年の9月5日から9日まで開催された国際分析学協会のミュンヘン大 p.225_1 https://menandrepremier.blogspot.com/2019/10/blog-post.html 2019/09/26
くろねこ
3
著者の講演を聴く機会が近々あるので再読です。1回目はわくわくどきどきしながら、刺激に圧倒されて一気に読んだのですが、今回は、時代や歴史をより具体的にイメージしつつイタリアと精神分析の関連についてじっくり味わいました。ミケランジェロのモーセ像は私の大好きな論文なのです。著者もその論文に魅了されて、精神分析やフロイトに美術史家の立場から踏み込んで行ったとのことで、嬉しくもあります。せっかくなので、著者の他の本も再読することにしました。2019/08/28
Sumichika3
2
いずれ再読したい。2015/07/11
烏龍茶
2
僕も、精神分析こそがフロイトの生み出した芸術であるように思ったのだった。芸術、広く言えば創造行為全般というのは、その作者の人生の中で養った感性の集積と言えるだろう。フロイト自身の行動が精神分析を形作っていく。その過程を、旅、芸術、友人関係、骨董収集など様々な角度から見たものがこの本に集積されている。ド素人の僕でも充分に面白かった。2012/07/29
esther
1
イタリアは不思議な国である。国全体が博物館であり、地下組織の匂いを漂わせ、偉大な田舎ローマはどんな最新都市にもひけをとらない風格がある。フロイトを軸にしてミケランジェロ、モーセ、父のトライアングルが各章を通して実に興味深い。とくにモーセ(モーセ論も通じて)に対する思い入れはわたしたち日本人が聖書を読んだだけではわからない民族の通底性を感じた。もう一度読み返したい本の一冊である。