内容説明
ベケット本人による回想と関係者たちの証言を集大成。ヌーヴォー・ロマンや不条理演劇の先駆者として知られる「巨匠」の素顔を、数々の貴重な写真とともに浮き彫りにする一級の資料集。J・M・クッツェーやポール・オースターも特別寄稿!未公開の「講義録」も収録。
目次
第1部 ベケットの回想(若き日のサミュエル・ベケット;いやいやながらの教師・大学講師;苦難の歳月)
第2部 回想のベケット(戦後の成功―フランス語小説と『ゴドーを待ちながら』;高まる名声;演出家としてのベケット;ロンドンとベルリンにおけるベケットの思い出;アメリカのベケット―賛辞と思い出 ほか)
付録
著者等紹介
田尻芳樹[タジリヨシキ]
1964年生。イギリス文学専攻。東京大学大学院博士課程中退、ロンドン大学Ph.D.取得。東京大学准教授
川島健[カワシマタケシ]
1969年生。英文学、演劇、文芸理論専攻。東京大学大学院総合文化研究科学術博士。ロンドン大学ゴールドスミス校英語比較文学科博士課程在籍。早稲田大学高等研究所助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あなた
4
ベケットが大学講師をしていた頃の生徒たちの回想があるのだがさんざんないわれようである。まったく記憶がない、大嫌いだった、退屈以外のなにものでもなかった。ちなみにベケット自身もいやいや講師をつとめながら生徒をあからさまに軽蔑していた。空転する授業。なんだか彼のテクスト空間のようだ。ベケットのテクストでは聴き手など誰もいないし、語り手もいずれは消えるのだ 2010/07/15
roughfractus02
3
ここにあるベケットなる名もそれを包囲する言葉も全て言葉である。顔のアップの表紙写真に、感謝という言葉を知らない男、学生に疎まれた教師、分析家、偏屈等々の言葉を付着させる短絡的な因果関係操作は、現前の権力を行使する演劇に現代社会を重ねて刑務所内のような作品群で抵抗し、その力を蔓延させるテレビやフィルムにおいて非主体的モナドを歩き回らせた諸作品を忘却してはじめて可能になる。生誕100年という現前の歴史を区切りにまとめられた本書は確かに言葉の壁でできた刑務所だ。が、そこにもはずれ者の言葉が水漏れのように溢れる。2017/07/31
白いハエ
0
ベケットの遥かな孤独と慈愛を、数多の証言の中に見出すことができる。「絶望をしっかりとつかみ、私たちのために歌わせよ」…絶望を知り、誠実に抱えようとして表出する態度。結局、証言であっても表皮の印象でしかないのだろうし、彼の作品をそのまま読み、そのまま観ること以外、われわれにできることはないだろう、と実感する。2020/10/16