出版社内容情報
ダブリン、パリ、ウィーンと、多感な若き芸術家ベラックワがドタバタと駆け抜けてゆく。彼の行く先ざきでは、アヴァンギャルドの風が吹き、ペダンチックな恋が爆発する! ――その半自伝的内容ゆえ「死後しばらくするまで」出版が禁じられていた、ベケットの幻の処女長編小説、ついに邦訳刊行なる。
内容説明
ダブリン、パリ、ウィーンと若き家術家ベラックワがドタバタと駆け抜けてゆく―。「死後しばらくするまでは」出版が禁じられていたベケットの幻の処女作、ついに邦訳刊行なる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
渡邊利道
4
気分がくさくさするのでベケットを再読。前回読んだ時よりもずっと面白く読めた。引用やパロディや地口などの遊戯性が切実で、読んでいると胸が締め付けられるような切ない気分になる。「〜〜に失敗するなどというのではなく単に〜〜しなかったというべきだろう」という一節とかたまらなく自己言及的にベケットらしくて良い。2020/04/21
井蛙
3
あらゆる偉大な作家の処女作がそうであるように、この作品もまた後々の傑作のなかで十全に展開されるであろう主要なモチーフの種子がぎっしり詰め込まれている(そんな訳で、偉大な作家の処女作というものには常にある種の読みづらさがある)。たとえば身体の運動に対する機械的な関心、どこに逢着することもない彷徨のなかで徐々に硬化してゆく肉体…。それにしても作家のジレンマは言語に対する異議申し立てを言語によって行わなければならないという点にあるのであり、それゆえ作家の饒舌さは作家の究極の欲望である沈黙と踵を接しているのだが→2021/08/28
roughfractus02
1
伝統的喜劇を思わせるスカトロジー、オナニズム、売春宿の性的横溢は、性愛を肯定する喜劇作家と異なり性愛と区別された愛の戯画の背景となる。本書執筆前、愛するために嫉妬する『失われた時を求めて』の人物に出会った作者は、肉体と峻別される愛にしがみつく主人公に、恋する人の不在から成り立つ愛について、唖然とする恋人を前に饒舌に語らせる。満たされず、気をもむ状態を共存するという彼の愛は、彼女が傍にいる時には不可能だ。『神曲』から採った怠け者の主人公ベラックワはダンテさながら地上の愛を否定するが、恋人に一言で侮蔑される。2017/07/29