内容説明
絵に描いたような幼なじみの真理子と利恵を苛酷な運命が待ち受けていた。ひとりが召され、ひとりは抜け殻と化したように憔悴の度を加えていく。文化祭準備中の事故と処理された女子高生の墜落死―親友を喪った傷心の利恵を案じ、ふたりの先輩である『私』は事件の核心に迫ろうとするが、疑心暗鬼を生ずるばかり。考えあぐねて円紫さんに打ち明けた日、利恵がいなくなった…。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tetchy
302
人の死は非常にショッキングな印象を与えるが、特に若い命が喪われると殊更に人の心に響く。更に誰もが経験したであろう高校生活。事件が起きた高校の描写は私を含めて読者をその時代へと引き戻してくれる。秋は夏に青く茂った葉が色褪せ、散り行く季節。そして木々たちは厳しい冬を迎える。しかしそんな秋にも咲く花はある。秋海棠はその1つ。秋海棠の花言葉を調べてみた。片想い、親切、丁寧、可憐な人、繊細、恋の悩みと色々並ぶ中、最後にこうあった。未熟。苦いけれど哀しいけれど、本書は高校生たちに贈るこれからの人生への餞の物語だ。2018/11/14
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
198
アカマンマにセイタカアワダチソウ、ススキ、ヨモギにチカラシバ、季節外れのタンポポも。秋の花に彩られたミステリー。懐かしい母校では秋の文化祭が中止になった。一人の少女が屋上から転落死したからだ。取り残されたもう一人の少女。二人はいつも一緒だった。一人が逝ってしまった夜も。小学生の頃から知っている彼女の憔悴を知り【私】は動き始める。真相を解く鍵は秋海棠に……。『空飛ぶ馬』に始まる【私】シリーズ3作目。古本屋巡りが趣味という【私】の目を通して綴られるフロベールや芥川などの小説のフレーズが物語に彩りを添えている。2015/10/22
カムイ
171
シリーズ3巻目にして長編!前回までは日常のミステリーを描いていたが今回は悲しくて遣る瀬ないストーリー!今年イチオシの本になりました、読んでほしいオススメ本!🤩2021/09/14
佐々陽太朗(K.Tsubota)
136
「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度しかないことへの抗議からだ」とは作中、円紫師匠の言葉。そう、人生はただ一度しかない。そして人はただ一度しかない人生で天寿を全うできるとは限らない。神の悪意を感じるほどの悲運もあり得る。悪意のかけらもない人の行動が引き起こす過酷な運命。この世に神はいない。しかし人の心の中には菩薩が住む。そこに救いがある。円紫師匠は酸いも甘いも噛み分けた大人だ。難解な謎を解く明晰な頭脳だけでなく、人の心を思いやる優しさがある。このシリーズが再々の読み直しにも耐えうる所以である。2012/04/20
修一郎
128
本読みの人生を貫こうとする「私」の生き方は明快で,かつ一生懸命に生きている姿が好きだ。「私」と円紫さんが日常の謎を解決するシリーズ,正ちゃん江美ちゃんとの楽しい交流だったり,挿入される数々の本の蘊蓄だったりの楽しみはこれまで通りだけども,今回はずしんと重い思いが突きつけられる。大切な友人を失った高校生が負う人生としては重すぎる。円紫師匠の鮮やかすぎる推理と温かいまなざしが印象的だった。 津田真理子さんとは別の作品で会えるらしい。訪ねてみようと思う。2017/12/09