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内容説明
かつて実在し、その後歴史上から姿を消したパザール族。この謎の民族に関する事典(1691年)の新版という形をとった前代未聞の事典小説。キリスキ教、イスラーム教、ユダヤ教の交錯する45項目は、どれもが類まれな奇想と抒情と幻想に彩られ、五十音順に読むもよし、関連項目をとびとびに拾うもよし、寝る前にたまたま開いた項目一つを楽しむもよし、完読は決して求められていないのです。失われたバザール語で歌う鸚鵡、悪魔に性を奪われた王女、時間の卵を生むニワトリ、他人の夢に出入りする夢の狩人…。オーソドックスな物語文学の楽しみを見事なまでに備えながら、その読み方は読者の数だけあるという、バルカンから現われた魅惑に満ちた(21世紀の小説)!本書には男性版・女性版の2版があります。旧ユーゴスラビアNIN賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
gu
5
これは要再読・・・。こうではないかという見当、願望のようなものはある。三つの立場から記述されたテキストを並べた構成は『藪の中』?もしくはそれらのズレから真相が浮かび上がる叙述ミステリか。どちらの予想もイマイチ的はずれだった。この物語はページをめくる動作と結び付いている。生まれ変わりと悪魔の跳梁は、気になる単語を求めて本をを行きつ戻りつすること、ある章で語られていた内容を別の章で思い出すことで読者の内にも再現される。2015/11/22
きりぱい
4
ふぅ・・何とか読み終えたという感じ。冒頭からしてびくびくさせられる、まえがきの惹き付け度が強烈。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教からの視点で記される失われし王国ハザール、そして君主、王女、博士などの民族、悪魔や夢の狩人から事典の執筆者まで、一見ばらばらなエピソードが、混乱とも統一ともなりうる壮大な展開を見せる。深いところまで読みきれているかは別として、幻想的で奇怪な物語部分は楽しんだ。2009/05/18
rinakko
3
“王女は鳥たちに告げた――「行きて汝らの詩を仲間に教えよ、さもなくば早晩、詩はだれからも忘れられよう……」と。” 大変好みな物語。美しくて、やり過ぎで。とりわけ、他人の夢を読みその夢に住み、夢を渡り歩く〈夢の狩人〉の設定が堪らない。めくるめく奇想と幻想…かと思えば、草原を吹き抜ける風を思わせる抒情。3本の栞を付け事典という体裁を調えつつ、構成の妙と緻密な仕掛けに溢れた小説。優れた〈夢の狩人〉であり詩を能くした王女アテーの項を、赤→緑→黄と読み繋げるところから手を付けた。 2011/11/25
ゆまち
2
引越しの時に手放してしまったことが今でも悔やまれる一冊。今や小さな国のテロリズムが大国を脅かす、なんていう警句めいた箇所もあって、著者が生きてきた旧ユーゴスラヴィアとその崩壊に続いた戦乱に思いを致さざるを得ない記述も仄見えて、浮世離れしたファンタジーに見えて実は結構生々しい物語なのです。これも要再読。
更新停止中
1
「辞典」という形式であることで「小説」の時間軸空間軸から離れて、異なる場所に同時に存在し、過去から未来を思い出し、未来から過去を予知するような、夢の中のように不安な視界に飲み込まれる。全ての記述が伏線であり、伏線の回収でさえまた読み方を変えれば伏線であって帰結したと思える場所も開始地点。技法だけでも勝ったも同然だけれど、描かれるイメージもまた息苦しい程狂って美しい。再読だけどこの本を絶版前に買わなかった事は一生の後悔の一つ。「男性版」は例の箇所照らし読みしただけなのでノーカウントで。2011/06/30