出版社内容情報
★第8回小林秀雄賞受賞。
内容説明
「西洋の衝撃」を全身に浴び、豊かな近代文学を生み出した日本語が、いま「英語の世紀」の中で「亡びる」とはどういうことか?日本語と英語をめぐる認識を深く揺り動かし、はるかな時空の眺望のもとに鍛えなおそうとする書き下ろし問題作が出現した。
目次
1章 アイオワの青い空の下で「自分たちの言葉」で書く人々
2章 パリでの話
3章 地球のあちこちで「外の言葉」で書いていた人々
4章 日本語という「国語」の誕生
5章 日本近代文学の奇跡
6章 インターネット時代の英語と「国語」
7章 英語教育と日本語教育
著者等紹介
水村美苗[ミズムラミナエ]
東京に生まれる。十二歳の時、父親の仕事の都合で家族と共にニューヨークに移り住む。イェール大学および大学院で仏文学を専攻。のち、創作の傍らプリンストン大学などで日本近代文学を教える。著書に、『續明暗』(1990年、芸術選奨文部大臣新人賞)、『私小説from left to right』(1995年、野間文芸新人賞)、『本格小説』(2002年、読売文学賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハイランド
111
12歳で家族とともにアメリカに渡り、英語の生活を拒否し日本文学に耽溺し、イェール大学で仏文学を学んだという、多重言語者であり創作者でもある筆者が、普遍語としての英語が席巻する世界の中で、日本語がどのような運命をたどるのか、国語教育はどうあるべきかを論じた一冊。言語を普遍語、国語、現地語に分類し、日本語が国語から現地語となる可能性に言及する。言語学者から見れば粗のある論説かもしれないし、日本文学を明治以後と設定するのはいかがなものかとも思うが、示唆に富む内容で学ぶものが多かった。日本人で良かったと思う一冊。2017/08/15
まーくん
108
著者水村美苗さんのことは寡聞にして存じ上げなかった。読み友さんの興味深いレビューで本書を手にしたが、著者の言語に対する深い洞察と鋭い論旨に引き込まれた。<普遍語><現地語><国語>という三つの異なるレベルの概念を提示し、<国語>とみなす日本語への危機感を示す。現在、「日本文学」としてまかり通っているものの多くが、日本の近代において成し遂げられた過去の遺産の上に成り立っているのであり、今まさに<普遍語>としての英語の世紀の中で、ひょっとすると日本文学が、そして日本語が「亡び」つつあるかも知れないと危惧する。2021/07/04
新地学@児童書病発動中
76
著者の日本語が亡びるという主張には無理がある。鴎外や漱石が使っていた格調高い日本語は滅びたのかもしれない。しかしコミュニケーションの道具として日本語は滅びていない。それが単純化され、味わいのないものになっていくのは仕方がない気がする。著者が世界語としてあげている現在の英語も18世紀や19世紀のものにくらべて無味乾燥になっている。文学に使われる言葉よりコミュニケーションに使われる言葉の方がはるかに重要だ。その意味で今の日本語は機能を十分に果たしている。著者の日本語や日本文学に対する愛情には共感できた。2013/06/27
(C17H26O4)
72
読友さんのレビューに誘われて再読。この本を読んで日本近代文学を読みたくならない人はいないのではと思う。主に漱石が取り上げられ、当時の作家たちの日本語に対する思いや果たした役割についてが、水村さんの持つ日本語に対する危機感と共にひしひしと伝わってくるから。一文が短く熱量があるので、つい引き込まれるように読んでしまう。評論としてはかなり読みやすいと思う。おすすめです。 以下メモ。→2021/07/29
AICHAN
68
図書館本。「日本語が亡びる」という論文的なものかなと思って借りたのだが違った。著者は12歳のときに父親の仕事の都合で渡米し、しかしアメリカが嫌いで早く日本に帰国したいと願った。しかし運命のいたずらでなかなか帰国できず、アメリカの大学を出て小説家となる。「今地球に六千くらいの言葉があるといわれているが、そのうちの八割以上が今世紀の末までには絶滅するであろうと予測されている」「アメリカの国力が今後どうなろうと、英語の支配は長い将来にわたって強まっていかざるをえません」という。しかし日本語は滅びないと私は思う。2021/08/06