出版社内容情報
津軽海峡を舞台に、老練なマグロ漁師の孤絶の姿を描く表題作他、自然と対峙する人間たちが登場する傑作短篇四作を収録。
内容説明
津軽海峡を舞台に、老練なマグロ釣りの孤絶の姿を描く表題作。四国に異常発生した鼠と人間との凄絶な闘いの記録「海の鼠」。名人気質の長良川の鵜匠の苦渋を描く「鵜」など動物を仲立ちとして自然と対峙する人びとの姿を精密に描いた傑作小説四篇を収録した作品集。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927‐2006年。東京生まれ。学習院大学中退。66年、「星への旅」により太宰治賞受賞。73年「戦艦武蔵」「関東大震災」などにより菊池寛賞受賞。79年「ふぉん・しいほるとの娘」(吉川英治文学賞)、85年「冷い夏、熱い夏」(毎日芸術賞)、「破獄」(読売文学賞)、94年「天狗争乱」(大佛次郎賞)、97年より日本藝術院会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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yoshida
109
動物モノの短編4編収録。まずは「海の鼠」。戦後まもなくに四国の島で大量に現れた鼠。作物を食い荒らし大繁殖する。遂に人家にまで大量に現れる。村人の生活の危機に官民で駆除に乗り出すも苦戦する。蝗害を連想し、自然の脅威と人知の虚しさを知る。「魚影の群れ」は鮪漁。娘の恋人を紹介される鮪漁師。娘の恋人は婿に入り鮪漁師に弟子入りを希望する。漁での不幸な事故が、娘の恋人を負傷させ反発させる。自分の船を持ち慣れぬ漁に出た男の不幸な結末。鮪漁師としての意地と矜持が不幸な事故の遠因と言える。迫真の描写に息を呑み読ませる作品。2021/12/26
mondo
61
「魚影の群れ」は随分前に映画で観た。当時人気絶頂の緒形拳、佐藤浩一、夏目雅子など名優揃いの映画だった。この映画では昭和の時代や家族の人間模様が描き出されている。その時は吉村昭の原作とは知らなかったが、今思うと吉村昭か、と思う。「海の鼠」は事実に基づいた小説だ。丹念に調べられ、現地で相当取材されていることが読んでいて分かる。途中の文章の中に「人間が土地を支配しているように見えるが、逆に土地が人間を規制しているのではあるまいか」と主人公の言葉で吉村昭は語っている。ここにも吉村文学の普遍的な主張が垣間見られる。2023/10/16
ともくん
61
四編の中編からなる作品集。 中編といえども、長編のような重厚感漂う物語は圧巻。 短編や中編でも、長編と変わらぬ筆致で、読者を圧倒させる。 これだから、吉村昭を読むのをやめられない。2020/11/03
kawa
59
80年代の名作映画「魚影の群れ」のエンド・ロ-ルで、原作者が吉村氏と知り早速のこちら。「魚影」を含む動物小説短編集だったのが意外、が、思わぬ拾いものをしたような充実作品の連発で、お楽しみ読書となってラッキ-。お得意の記録文学的「海の鼠」、幻想ティストが珍しい「蝸牛」、鵜匠と鵜の駆け引き、そして家族の葛藤を描く「鵜」、まぐろ一歩釣り漁師とこれまた家族の葛藤をえがく「魚影の群れ」どれも秀逸。小説も映画も持ち味違うところで楽しめ、グッド!知らなかった鵜飼のあれこれが新鮮な「鵜」は特に皆様にお勧め。2021/01/22
キムチ27
46
氏の作品ジャンルに有る「自然と人間の対峙」モノ。4編の短編が入っている~「海の鼠」が圧巻だった。寒村、四国の何処かが舞台。黒々と広がる海、人々は力を合わせケンメイに鼠との闘いをして行くが何れも空拳に。終えてみれば運命の悪戯としか言いようもない理由で好転して行く訳なのだが。いつも思う「人間とはなんと愚かでちっぽけな存在なのか・・しかし懸命に頑張る姿には感動する」と。それを伝えてくれる氏の作品に胸が熱くなった。2018/06/26