内容説明
水辺の遊びに、こんなにも心惹かれてしまうのは、これは絶対、アーサー・ランサムのせいだ―そう語り始められる本書は、カヤックで湖や川に漕ぎ出して感じた世界を、たゆたうように描いたエッセイ。土の匂いや風のそよぎ、虫たちの音。様々な生き物の気配が、発信され受信され、互いに影響しあって流れてゆく。その豊かで孤独な世界は、物語の根源を垣間見せる。
目次
風の境界
ウォーターランド―タフネスについて
発信、受信。この薮を抜けて
常若の国
アザラシの娘
川の匂い森の音
水辺の境界線
海からやってくるもの
「殺気」について
ゆっくりと〔ほか〕
著者等紹介
梨木香歩[ナシキカホ]
1959年生まれ。作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
291
カヤックとともにたどる梨木香歩さんのエッセイ。彼女のホームフィールドの琵琶湖畔から、北海道へ、はたまたスコットランド、あるいはアイルランドへと自由に駆け巡る。これを読んでいると水辺の風景に魅かれるし、カヤックを始めてみようかしらという気にもなる。植物や水鳥の見方や見え方が、これまでとは違ってきそうだ。また、自然と一体になった、あるいはその自然の背後にあるものまでを幻視する梨木文学の発想の一端をここに見る思いがする。そして『冬虫夏草』や『家守奇譚』は、こんな風にして生まれてきたのかと深く納得するのである。2015/02/03
新地学@児童書病発動中
126
作家、梨木香歩さんのエッセイ集。英国の海辺を旅した時のことや北海道の川でカヌーを漕いだことなどが描かれている。作風から物静かな人を想像していたので、意外に活動的な人だと驚いた。梨木さんが水辺に惹かれるのは分かるような気がする。水辺は陸と海の境目だけではなく、意識と無意識の境目を表しているのだろう。そこに立つことで作家としての想像力が活性化されるのだ。柔らかな自然描写だけではなくて、心の内面を覗き込むようなエッセイの内容が良かった。2014/06/23
風眠
97
アウトドア、それは私からは最も遠い世界。海上保安庁のHPをチェックしているあの人の背中は、何がそんなに楽しいのか悲しいのか、波や風の様子に一喜一憂している。そして行けるとなったら朝早くから出かけ、海を渡ってドロドロになって帰ってくる。何が楽しいのか、さっぱり私には分からない。けれどこのエッセイに出会って、あの人の気持ちが少し理解できたかも。優しいだけじゃない自然という現実。そこに行かなければ絶対に感じることができない感情。この世界と一体であり、そして独りであるという感覚。カヤック乗りの気持ちというものを。2019/04/26
KAZOO
83
エッセイ集です。梨木さんのこの本を読んでいるとイメージが浮かんできます。また日本の作家が書いたようには感じられないところがあって北欧かスコットランドのイメージが浮かんで来ます。その人がカヤックについてのエッセイということも驚きです。読んでいてゆったりとした感じがあり心地よさが残ります。2015/06/30
のぶ
82
梨木さんの水をテーマにしたエッセイ集。描かれている場所は、スコットランド等の海外から日本国内まで様々。読んで、梨木さんがカヤックをやっているのを初めて知った。それも熱心な趣味のようだ。今までの作品を読んでアウトドアのアクティブな面は想像できなかったので意外だった。文章は美しく、水の透明さや、森や湖の静けさや、澄んだ空気が伝わってくるようだ。著者の新たな一面が垣間見られたところで、今後読む作品のイメージが変わってくるように感じた。「家守綺譚」や「冬虫夏草」とは一線を画すが、新たなお気に入りになった。2019/07/22