内容説明
1930年代、自分で活字を組み、印刷をし、好きな本を刊行していた小さな小さな出版社があった。著者の顔ぶれはモダニズム詩の中心的人物北園克衛、春山行夫、安西冬衛ら。いま、その出版社ボン書店の記録はない、送り出された瀟洒な書物がポツンと残されているだけ。身を削るようにして書物を送り出した「刊行者」鳥羽茂とは何者なのか?書物の舞台裏の物語をひもとく。
目次
第1章 ボン書店の伝説
第2章 出立の諸相―一九三〇~三二
第3章 『マダム・ブランシュ』の時代
第4章 追跡鳥羽茂
第5章 転換の諸相
第6章 消えてゆく足跡
終章 一九三九年夏
資料
著者等紹介
内堀弘[ウチボリヒロシ]
1954年生まれ。1980年に古書店「石神井書林」を開業。詩歌書を専門に、1920~30年代のモダニズム文献を扱う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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はやしま
27
詩専門の古書店主が昭和初期に存在したボン書店が発行した詩集に魅せられ、刊行人・鳥羽茂の足跡を辿る。本編前段は昭和初期モダニズム・シュールレアリズム華やかな時代の日本の詩に纏わる人々と出版について、後半が鳥羽茂追跡といった趣。詩を巡る時代の変化の中突然現れ、いくつかの詩と同人誌や書籍を残して忽然と消えた鳥羽茂の姿はまさに幻で、雲を掴むようで、実在感がない。しかしこの「文庫版のための少し長いあとがき」で思わぬ奇跡が起こったことを知る。私も解説の長谷川郁夫氏同様、目頭が熱くなってしまった。(コメントに続く)2017/02/05
阿部義彦
20
本の雑誌の評伝特集号で知りました。ちょうど復刊されたのを見ていたので読んでみました。今で云うひとり出版社、モダンな詩集を瀟洒な装丁で出したボン書店の社主鳥羽茂を巡る物語。ほとんど無名に近い人物をよくぞと言う位克明浮かび上がらせています。何よりも見ものは文庫版になって追加された驚くべき事実。鳥羽茂の妹が単行本を読んで著者のもとに名乗り出て来たことです。そして息子まで行きている事が明らかになります。時の流れの´゚ω゚何と不思議な事か!兎に角楽しめました。有難う本の雑誌。2016/02/06
ふろんた
20
手にしたきっかけが、古書店に行ったら必ず1冊買うというマイルール。特にめぼしい物がなかったら、ちくま文庫から探す。タイトルに”書店”とあるので、これに決めただけという本。戦前に詩集を一人で発行していた出版社ボン書店の鳥羽茂を追う。偶然手に取った本とはいえ、いい本に出会ったものだ。2015/05/10
はる
13
図書館本。地域図書館の展示「人生いろいろ」の面展台から。司書さんおすすめで単行本を読んだ。本が一冊世の中に出て残っていくには、不思議がたくさんあるのだなと思う。自分では手に取りそうにはない一冊の本との出会いにも、いくつもの不思議がある。「白百合の一杯咲ける山路をしづしづ進む雨の日の馬車」という一首が若くして亡くなった人たちの姿と重なって切なかったのだが、「文庫本には続きがあるんですよ!」と司書さんに聞いて、また読む。そしてその山路の先にある一本の梨の木のもとに着いた。良かった!ここまで来れて。2016/12/10
ぱせり
12
いつのまにか、この本の著者その人に惹かれていきました。幻のように消え去った書店に心奪われ、古い新聞や雑誌の広告ひとつひとつに「ボン書店」の名を探し、当時を知る人を訪ね・・・夢を追いかける心の若さを思います。2009/06/21