内容説明
『重力の虹』など、現代アメリカ文学史上に聳える三つの傑作長篇を発表後、十余年の沈黙ののちに作家自身がまとめた初期短篇集。「謎の巨匠」と呼ばれてきたピンチョンが自らの作家修業時代を回顧する序文を付した話題作。ポップ・カルチャーと熱力学、情報理論とスパイ小説が交錯する、楽しく驚異にみちた世界。新装版刊行にあたり解説二本を収録した。
著者等紹介
ピンチョン,トマス[ピンチョン,トマス][Pynchon,Thomas]
1937年5月8日ニューヨーク州ロング・アイランド生まれ。主な著書に『重力の虹』(73年、全米図書賞受賞)などがある
志村正雄[シムラマサオ]
1929年東京生まれ。東京外国語大学および鶴見大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かっぱ
38
初読み作家・短編集。かなり長い間「読んでる本」に登録。コロナ巣ごもりで消化(読了)。最初の「スロー・ラーナー(のろまな子)序」は最後にもう1度読み返した。訳者解説と著者による「序」を読んでやっと何となく話が分かるといった感想。「秘密裏に」、「秘密のインテグレーション」が好み。「秘密のインテグレーション」は少年たちが出て来てストーリーも分かり易い。著者はこの作品に好意的だけど、逆に訳者はあまり評価していない。この「分かり易い」がきっとダメなんでしょうね。難解とされる長編「Ⅴ.」にもいつか挑戦してみたい。2020/05/04
サトシ@朝練ファイト
32
内容はおいといて、この人の訳の方が読みやすい。2015/02/08
jahmatsu
31
この書籍を購入した際、その古本屋(個店)の海外文学コーナーに何故か同じものを3冊もバラバラの位置で発見。 ピンチョン人気ないのか? 店長のピンチョン推し? それにしても3冊も、、なんとなくそれが気になったまま読了。これがエントロピーってことなのか?2019/06/28
メセニ
17
再読(志村訳は初)。"のろまな子"の意を冠した本作は『重力の虹』から10年の沈黙を破り発表された唯一の短篇集。注目は序文。デビュー前に書かれたこれら習作に対し本人は概ね否定的だが、彼が自身の内側を種明かすことは貴重だ。怪物的な作品と覆面性からヘタに崇められてしまったことへのイタズラ的ポーズか。彼なりのカモフラージュ。あっかんべぇ。本人の評価はさておき十分に面白い。情報のエントロピーや歴史と陰謀、見覚えのある人物など、『V.』や後の作品へと至る巨人の種がすでに芽吹く。「低地」などは今になって良さに気づく。2018/05/13
マウリツィウス
17
【SLOW/LEARNER】トマス・ピンチョンの展開したポストモダニズム引用集合は挫折することのない《思想界》を批判した形跡を踏まえることから、実際は古典主義像における批判論を展開したものとも称せる。つまり古代ユダヤ教経典ではないキリスト教的世界を展開する無限参照テクストが事実これに当てはまる。《新約聖書》=キリスト教起源史を参照した引用網が暗示的にポストモダン否定論を展開した形跡からも類推可能であり、ジェイムズ・ジョイス打開策はここにも見出せ、言語晦渋性を簡略統治下する技巧に反転材料を導き出す登場の標。2013/08/03