内容説明
日本は抗い難い力に引きずられるように、破滅をもたらした戦争に突き進んだ。戦後は、「戦時下」の記憶を抹殺して高度成長を成し遂げたが、実は正体不明の呪縛は清算されず、「まやかし」によってやり過ごしてきたのである。上巻では、江戸期に幕府の官学となった朱子学が神道と混淆し、幕府の正統性を証明しようとする手続きの中から「尊皇思想」が成立してゆく過程を描く。
目次
慕夏思想・天皇中国人論と水土論
亡命中国人に発見された楠木正成
日本=中国論の源流
もし孔子が攻めてきたら
国家神道という発想
正統的な儒学者・佐藤直方
偽書のたどった運命
殉忠の思想
政治が宗教になる世界
志士たちの聖書
売国奴と愛国者のあいだ
著者等紹介
山本七平[ヤマモトシチヘイ]
大正10(1921)‐平成3(1991)年。東京生まれ。青山学院高等商業部を卒業。昭和17年徴兵され、フィリピンで敗戦を迎える。収容所生活の後、22年復員。33年に山本書店を創立し、主に聖書学関係の本を出版する。昭和45(1970)年にイザヤ・ベンダサン名で出した『日本人とユダヤ人』が大ベストセラーになり、第2回大宅ノンフィクション賞を受賞。以後、自らの戦争体験や独自の日本人論をテーマに多数の著作を残す。その業績に基づき、56年、第29回菊池寛賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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shouyi.
6
表題からわかるように、天皇がなぜ現人神と呼ばれるようになったかを説く書。朱子学から始まるとは誰も予想しない。山本氏の知識量と洞察力。再び評価されるべき人物だと思う。2021/10/22
中年サラリーマン
6
江戸時代に武家政権が安定したが天皇がいるなかでその武家政権の正統性は?ってとこで当時の日本人、というか武士は考えた。それは朱子学。その伝統を明治維新そして戦後できっぱりと忘れようとしたために過去とつながりの切れた訳の分からない束縛性のみが今日に残った。戦前、戦後と江戸時代に築いた思想というものの中で僕らは昔と同じ悩みを言葉のみ変えながら繰り返し言い続けてきたのかもしれない。2013/06/12
衛府蘭宮
3
ざっくり言えば日本朱子学の一派崎門学の門人・浅見絅斎に、戦前戦中の現人神の源を見る…というもの。難解で挫折した\しそうになっているという方は、儒者の原典からの引用部を読み飛ばして読めばよい。2018/04/11
父帰る
2
著者の山本七平氏は小生と父と同世代。出征世代だ。山本氏の著書は大東亜戦争の現体験に大きく影響されている。現人神が創造される過程を古文献を引用しながら、丁寧に追っている。尊皇思想は、意外にも明末に亡命して来た中国の儒学者に因ってもたらせられた!この著書では浅見絅齋の「靖献遺言」が詳しく取り上げられている。「靖献遺言」は吉田松陰が獄中で誦読した書だ。2014/08/03
yakin100
1
非常に興味深かった。いま上巻、つまり半分を読み終わった感想だが。漢文やそれの読み下し文が当時のままの歴史的な史料として出てくるのでやや読みにくいが、朱子学の影響を受けた江戸時代の儒学者浅見絅斎(けいさい)が、昭和初期から始まる天皇への盲目的な熱狂を用意する結果になったのだ、という筆者の論旨には目から鱗が落ちる。2010/06/27