内容説明
陸軍大将今村均はラバウルで敗戦を迎えた。やがて始まる軍事法廷で次々と裁かれる将兵たち。不充分な審議のまま戦犯として処刑されてゆく部下たちの姿を目のあたりにした今村は自らの意志で苛酷な状況の戦犯収容所に入り、やがて自身も戦犯として服役生活を送る。一人の軍人の姿を描くことで戦争と人間の真実を問うた名作。
目次
ラバウル戦犯収容所(今村大将、自決をはかる;迷える小羊のために ほか)
太平洋戦争勃発まで(均少年と角兵衛獅子;結婚 ほか)
太平洋戦争開戦(ジャワ攻略戦―重油の海の立ち泳ぎ;全蘭印軍無条件降伏 ほか)
ジャワ裁判始まる(獄中の「八重汐」大合唱;裁判に立ち向かう気魄 ほか)
晩年(帰国、出獄、そして自己幽閉;舞中将の述懐)
著者等紹介
角田房子[ツノダフサコ]
1914年東京生まれ。福岡女学院専攻科卒業後、パリに留学。85年『責任 ラバウルの将軍今村均』で新田次郎文学賞受賞、88年『閔妃暗殺』で新潮学芸賞受賞。その他、著書多数、95年「日韓の歴史・三部作」完成を機に東京都文化賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
イプシロン
33
「責任(responsibility)」とは本来は「応答する」という意味である。ある出来事に対して行為する自由の意味であり、責任と自由はセットである。また出来事を予測してとる行為も責任に含まれる。だが、社会的生活においてこの責任というものが十全に機能しえるかを真面目に考えたことは無かったかもしれない。しかし今回の再読で、真の自由と責任は、社会的であったり組織団体または何らかの共同体に帰属しているなら、あり得ないものであることに気づいた。そしてそうなると、責任というものが組織・団体あるいは社会に対して2020/12/08
おかむら
32
陸軍大将今村均の評伝。インドネシアを解放に導いたとかマッカーサーから讃えられたとか、最近は仁将聖将のエピソードで語られる今村均。戦前の日本人はこんなに立派だった系の言説に利用されてる感があるが、この本はきちんと帝国陸軍軍人としての功罪にも言及してあり決して賛美本ではないところがとても大事。その上で今村均の生涯(とくに戦後)はやはりすごいお人だわーと。責任をとるってこういう事かと! ジャワやラバウルなど南方地域の戦争や戦犯収容所など知らない事が多くて最初だけちょい読みにくいけどだんだん引き込まれました!2021/08/29
さきん
32
日露戦争後に将校になり、実戦らしい実戦を経験したのは、日中戦争の南寧攻略戦から。ジャワでの軍政を上手くしき、ラバウルでの自給体制で粘っていたことが評価されている。一方でノモンハン事件以前の軍備近代化の遅れ、あいまいで悪い方向で解釈されていった戦陣訓の制定など、批判されうる点もいくつか出てくる。将兵も日露戦争時に比べると行儀が悪くなり、軍規が乱れていた。2018/12/22
たかぴ
28
この本で書かれている戦争は誰が悪いのではなく時代が起こさせたと考えたい。軍人として日本に帰ってきても贖罪し続ける。頼れるものはキリスト教と歎異抄だが軍人として生きた。今世界が日本人のいいイメージを持っているのはきっと今村均のような人だと思う。ただ、今このような人がいるかと言えば考えてしまう。どうすればここまでの責任を持つ事が出来るのかを考えたい。先の戦争で亡くなられたすべての人にご冥福をお祈りします。おかげで戦争のことを考えずに日本で生きています。ありがとうございました。2019/11/20
A.T
24
角田さんの本を読むのはこれで3冊目になる。朝鮮併合のきっかけの事件「ミンヒ暗殺」、大杉栄虐殺、満州建国、満映発足に関わった「甘粕大尉」、朝鮮出兵、日中戦争、太平洋戦争と戦犯としての戦後と人生全てを戦争に関わることで生きた陸軍大将「責任 ラバウルの将軍今村均」。近代史の年表では1行に満たない出来事のドキュメントが克明に取材されている。1行も創作は挟まず、当時の記録手記関係者への直接取材を通したまとめになっている。→続き2020/08/08