出版社内容情報
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内容説明
キリスト教の正典、「聖書」―その奥にひそむのは、古代オリエントやギリシアのあらゆる神々の姿が織り込まれ、ユダヤ民族悠久の歴史が幾重にも積み重ねられた、多文化的な空間であった。異教のバァール神話の死と復活のドラマ。ギリシア神話のアドニスとアフロディテの出会いと別れの物語。エーゲ海であがめられた治療の神アスクレピオス。治癒神イエス登場の背後には、これら異端の神々の系譜を透かし見ることができる。従来の宗教学的解釈では光をあてられることのなかったこの歴史を、宗教人類学の視線から掘り起こし、のちの聖書の読みを決定づけた古典的名著。
目次
聖書をめぐる謎
第1部 旧約聖書の原像(土地取得伝承―砂漠のなかの寄留者;契約祭儀伝承―ヤハウェ共同体の論理と行動)
第2部 カナンの神々の系譜(死と再生の神々―バァールとアドニス;病気なおしの神々―エシュムンとアスクレピオス)
第3部 新約聖書の成立(治癒神イエスの登場;イエスとアスクレピオスの競合と葛藤;新約聖書の虚と実)
著者等紹介
山形孝夫[ヤマガタタカオ]
1932年生まれ。東北大学文学部卒。同大学院博士課程修了。宮城学院女子大学教授、学長を歴任し、現在同大学名誉教授。専攻は、宗教人類学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みのくま
12
旧約聖書はカルデア人アブラハムからイサク、ヤコブそしてモーセに至るまでの土地取得物語であった。旧約聖書はベトウィンであった者が土地の所有権を得る為に何世代にも渡って苦難を受け続けた事が記される。カナン定住後イスラエルは土着の神を崇めるようになる。遊牧の神ヤーヴェから豊穣神バアル他多神教へ。それは農耕定住によって必然的に起きた宗旨替えであった。豊穣神の特徴は四季を抽象化した「死と再生」である。イスラエルは定住後も苦難を迎え唯一神ヤーヴェへの信仰が復活する。そしてそこに豊穣神が混ざり込み、キリストが誕生する。2019/12/24
那由田 忠
9
歴史家が見ればイエスは預言者として激しく語ったにすぎなかった。しかし、新約聖書はイエスをメシアとして描かねばならなかった。悲惨な最期をとげても悲劇的な死でしかなかったものを、人類の罪を償うためキリストの行いとして示したのだ。旧約聖書に書かれていた過ぎ越しの祭と同様に、祭の中で朗誦されたと。イエスの死と再生を確認し、信徒共同体の決意を高めるものであった。実際のイエスの姿や記録は問題でなかった。それを福音書相互分析によって根拠づけられる。粉飾が「明細化」によって行なわれていった跡がいくつもある。なるほどなあ。2016/02/14
あだこ
4
旧約聖書と新約聖書がどういった時代背景のもとで成立しそれぞれ同時代の信仰をいかに淘汰していき、キリスト教の聖典として生き残っていったかがよくわかる。とても勉強になった。2013/01/01
Hepatica nobilis
4
山形孝夫は宗教学会の異端的存在。明解で西洋ではタブー史されたキリスト教の原初の姿を予断を捨てて追求している。非常に読みやすく面白い。
刳森伸一
3
聖書でキリストが治癒神として描かれる理由を旧約聖書の記述や古代オリエントの神々のエピソードから解き明かしていく知的好奇心を刺激する歴史探求書。謎を解いていくプロセスを追従して読めるようになっているので読み物としても面白い。2015/01/31