ちくま学芸文庫
増補 敗北の二十世紀 (増補)

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  • サイズ 文庫判/ページ数 222p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784480091031
  • NDC分類 104
  • Cコード C0110

内容説明

記憶の想起を困難にし、経験の在りようを根底から変えるほどの破壊。区別という概念を無効にする絶対性の侵蝕。言葉のうちにいやおうなく刻まれた無数の傷痕…。二十世紀が直面した光景とはそのようなものであった。この未曾有の苦難は、アーレント、シュミット、ツェランら、知識人たちの応答にいかなる形姿をもたらしたのであろうか。本書は、“赤裸々なリアリティとの恐るべき衝突”によって作動した彼らの思考経験を跡づけると同時に、われわれに残された可能性を照らし出す、省察の結晶である。文庫化にあたり、新たに三篇を増補。

目次

記憶の縁―序にかえて
1 概念の物語
2 非正規性の空間
3 「残された」言葉
4 敗北の記憶
付論(時代認識に関する一考察―一九二〇年代の「発見」をめぐって;「文献学的な知」に向けて;丸山眞男における「恐怖」;ベケットの小さなポリティクス)

著者等紹介

市村弘正[イチムラヒロマサ]
法政大学法学部教授。思想史専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

KAZOO

62
結構小冊子ながら内容は凝縮された感じの本です。4つの小論が収められていて主に、ハンナ・アーレントの言葉やカール・シュミットについての考え方を紹介しつつ著者の考えを表明しています。最後のフロン「時代認識に関する一考察」も読みでがありドイツのワイマール時代を言及しての論考です。読みでがある本です。2015/08/26

壱萬弐仟縁

9
核戦争、原発。この2つは21世紀でも引きずる問題。世界喪失、という謂いは初めてお目にかかった。アーレントの暗闇(030頁)。アーレントは思考欠如という日常生活のありふれた経験から、倫理的問いを受けとるものとしてある(049頁)。社会が逆コースを辿りはじめ、右傾化するとき、社会生活に暴力性を発見するとき、私たちは30年代を呼び寄せ、参照してきた、と著者は指摘される(142頁)。最近のメディアの世論調査も、「本当でしょうか?」と冷静に問う姿勢が、読者や、国民一人一人に問われている。問う姿勢を崩す暗記偏重教育。2013/08/26

うえ

6
L・シュトラウス「世界が娯楽の世界にならないようにするただ一つの保証は、政治と国家である。こうしてみれば、政治に敵対する者たちが望んでいることは、結局、娯楽の世界を、楽しみの世界を打ち立てることであり、つまり真剣さなき世界を打ち立てることなのである。シュミットは…人間生活の真剣さが脅かされているのを見るがゆえに、政治的なものを是認している」シュミット「味方と敵の区別が、たんなる偶発性によってであれ全面的に消失していたなら、人間は、自らの現世での生活を享受する十全な安全性を獲得したであろうに」2015/07/05

Mealla0v0

4
ハイデガーの「故郷喪失」の概念を、アレントの全体主義論とシュミットの正戦論・敵対性理論と突きつけ合いながら、20世紀を特徴づけた「敗北」の記憶に思考を巡らせる。哲学者の議論を手許に置きながらも、著者のまなざしは常に「日常」や小さきものへと向けられており、戦争を契機として、その後の世界においても、罅の入った「生」が問題とされている。アレントとシュミットという、一見相反するような思想家を世界戦争による故郷喪失を媒介につなぐ試みは刺激的だった。2020/04/29

zirou1984

1
市村弘正のまなざしは、常に小さなものや失われたもの、傷ついて損なわれたものに対して向けられる。おそらく著者は、本当の悲劇というものは決して物語ることが出来ないのだという事実に、徹底して向き合ってきたのではないだろうか。アレントからシュミット、丸山真男といった戦間期の思想家達の言葉を借りながら、本書ではそうした「言語を絶する悲劇」であった20世紀という時代を、時代が犯した敗北という事実を、繊細ながら強靭な文体によって懸命に引き受けようとする。歴史が成功者の手で綴られるのだとしても、ここには敗北の言葉がある。2012/05/23

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