内容説明
悲劇はわれわれに向って、理性と秩序と正義との領域は恐ろしく限られていること、また、われわれの科学や技術の力がどれほど進歩してもこの領域が拡がりはしないことを、教えてくれる。人間の外と内には「他者」が、世界の「他者性」がある。ところが、古代ギリシアのアイスキュロスからシェイクスピアを経てラシーヌまでは勢いがあった、社会生活と想像力的生活とのある本質的な要素―悲劇を生み出す基本的要素―が、17世紀以後は西洋の意識から脱落してしまった。なにゆえに、17世紀は悲劇の歴史における「大分水嶺」となったのだろうか。文芸批評の枠をこえて、近代がもたらした「経験」の変容を活写する。