内容説明
とめどもなく存在感が稀薄化していく現代世界にあって、われわれの真の自己はどこに求められるのか。文明を築き上げた人類の英知はどこへ向かうのか。失われた牛を探し求める牧童の道行きを描く十枚の円相に禅の追究するさまざまな課題を内包させた古典「十牛図」を手引きにして、自己と他、自然と人間、自己自身への関わりについて考察し、現代人の「真の自己」への道を探る。テキストの現代語訳と詳注を併録。
目次
自己の現象学―禅の十牛図を手引として
住鼎洲梁山廓庵和尚十牛図
禅の語録と現代―解説に代えて
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
(C17H26O4)
77
解題部を除き読了。「自己の現象学」部は途中から、ちらとでも他のことに気を取られると、たちまち何を読んでいるのかわからなくなるという大変な読書だった。到底読めたとも理解したともいえないが、自分の中で繋がったこともあったし、自分なりに得たものは大いにあったからよしとする。とても面白かった。多方向から繰り返し繰り返し論じてあるので(ことばを通して表現できないものをことばで表現するためにはこう論じざるを得ないのかもなあ)、次第に朧げに見えてきたものがあった。近いうちにもう一周読むことにする。2023/01/24
きょちょ
21
中国禅宗からくる「十牛図」、これは凄い!! 「真の自己」を探すのが牧人で、「真の自己」は牛の姿。 しかし、その牛は十図のうちわずか四図。何故だ! 第六図で牛と融和し、第七図で牧人と牛は一体化する。つまり、自己実現できたわけだが、ここまででは逆戻りする可能性もあり、しかもそれはあくまで自身のための真の自己発見でしかない。 第八図は唖然、今までは一体なんだったのか!しかも第九図第十図も凄い! 哲学に発展する解説はちんぷんかんぷん。 私は70ページまでで充分で、ゆっくり思索してみたい。70ページまでは★★★★★2017/01/14
テツ
19
悟りに至るプロセスを描いた十牛図。十コマで描かれた漫画のような世界に何を見出しどう受け止めるのかという基本的なことについて。牛を求め牛を探し、それを手に入れ飼い慣らした末に牛も自らもこの世界から消え去る。真の自分探しみたいな噴飯ものの薄っぺらい自己啓発話が嫌いなのは、そこに至ることをゴールとして設定しがちだからであって、牛を手にして自己に至った末の先を示す十牛図については違和感なく受け入れられる。必死にその姿を探し求めているうちは自己に到達することは決してない。2021/07/05
T.Y.
7
前半は上田の論攷。禅の悟りに至る道程を描いた十牛図を、悟り=真の自己ということで「自己の現象学」として、西田に淵源する京都学派の哲学的に解釈、著者独自の「自己ならざる自己」を読み取る。ブーバー、エックハルト、ニーチェ等西洋哲学との比較、そして第八~十図を一つの境地として、哲学の主題としてはいずれかに偏しやすい自己・自然・他者を同列とする贅沢さ。後半は柳田による十牛図の序・偈頌の解説、そして十牛図の歴史的成立を含む解題。こちらも資料として満足の出来。図版も冒頭の周文画と後半の廓庵版画で見比べてみる価値も。2015/11/15
ポカホンタス
5
授業で「十牛図」の話を聞いて読んでみた。禅特有の言い回しが多く、数行読んでは呆然とするという繰り返しではあった。後半は流し読みになったが、十牛図というものが表現していることは、なんとなくわかった気がする。2019/10/12