内容説明
内部 外部、秩序 混沌、清浄 不浄、自己 他者などの無限に反復される二元論のうえにたえまなく分泌されるもの。境界をつかさどる聖なる司祭―〈異人〉。この、内と外とが交わるあわいに生ずる豊饒なる物語を、さまざまなテクストを横断しつつ明快に解き明かす、危険な魅力にみちた論考。
目次
序章 〈異人〉―漂泊と定住のはざまに
第1章 〈異人〉の考古学(境界・無縁・コムニタス;市・交通・異界;ほかいびと・まれびと・やまびと;聖痕・不具・逸脱)
第2章 〈異人〉の系譜学(王権・供犠・刑罰;天皇・賤民・職人;亡命・遊行・芸能)
第3章 〈異人〉の現象学(われら・かれら・バルバロス;周縁人・境界人・通過儀礼;内なる他者・無意識・狂気)
終章 さらに、物語のかなたへ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
72
異人とは内/外の境界に捧げられる生贄、さらには秩序への異議申し立てだという。商人・乞食・癩者・遊女・芸人の集まる無主無縁の辻が目に浮かぶけれど、例えばあの蝉丸も、逢坂関にコロニーを形成した盲人芸能集団なのだそうだ。さらに著者は穢れの浄化装置としての王殺しを検証し、かつては王=異人だったことを説く。日本における聖なるもの、すなわち浄であるカミと不浄であるモノとは不可分な垂直構造をなしているから、モノ鎮めを生業として流離した賤民や芸能民は、カミ祀りを行い光の中心にいる天皇と、互いに補完し合っているのだそうな。2017/12/08
翔亀
11
デビュー作に全てがあるといわれるが、赤坂氏はどうか。初出は85年。あの浅田彰の「構造と力」が83年、ポスト・モダンの軽快な理論書=知的遊戯が一世を風靡した中に本書もあった。確かに、異人を巡る古今東西の民俗/民族/歴史/宗教/精神分析/社会学者の言説を縦横無尽に引用網羅したカタログっぽい。しかし浅田がチャート式とも称されたすっきりした理論だったのに対し、漂泊/定住、排除/歓待、貴/賤といった異人の両義性のしつこいぐらいの変奏で、正直うんざりする程。が、浅田のその後の沈黙に比し、赤坂氏の活躍は何故か?【続く】2014/01/29
misui
6
「<異人>とはいずれ、共同体とその外部との<交通>をめぐる物語である」。内部と外部の相補的な関係のヴァリアントをたどり、そこに立ち現れる異人というものがどのような存在なのかを示す。これはずいぶんと射程の広い論考。天皇や賤民などの異人の系譜からリアルな手応えを与えてくれるのもいいし、なにより異人を語るために「内と外」の関係性をしっかり見据えているのがいい。異人論の序説・出発点としてはこれ以上は望めないのではと思わせる良著でした。いやー面白かった。いろんなキーワードが拾えてありがたい。2010/04/10
愁
3
異人/境界人としての自分とそのルーツの確認の為に。2018/05/10
satoshi
3
<漂泊>への想いとは、いわば、<有主・有縁>の世界にがんじがらめに縛りつけられたわたしたちの日常的な生が、いやおうなしに抱えこんでしまう<無主・無縁>の世界への憧憬である。換言すれば、<有主・有縁>の世界、つまり共同体あるいは国家への“強いられた定住”があるがために、わたしたちはさだめなき<漂泊>を夢想する。と同時に、“強いられた定住”に耐えつづけるためには、ひとつの見せしめ的な光景として、“強いられた漂泊”がたえずわたしたちの周縁にくりひろげられなければならない。(107-108ページ)2015/09/19