出版社内容情報
近代の衛生観念を先取りしたユダヤ教、病者に寄り添い「救い」を説くキリスト教。ペストからコロナまで、疫病と対峙した人類の歴史を描き、精神の変遷を追う。
内容説明
ペスト、赤痢、コレラ、スペイン風邪、新型コロナ―、古代から現代まで、人類は疫病とどのように向き合ってきたのか。律法により衛生管理を徹底し「穢れ」を排除したユダヤ教と、病者に寄り添い「魂の救い」の必要性を説いたキリスト教。二つの価値観が対立しつつ融合し、やがて西欧近代という大きな流れへと発展してゆく。聖書に描かれた病者たち、中世の聖者や王が施す治療、神なき現代社会で「健康」を消費する現代医学。疫病に翻弄される世界の歴史を描き、精神の変遷を追う。
目次
はじめに―いま、宗教の役割とは何か
序章 新型コロナとキリスト教
第1章 疫病は聖書でどう描かれたか
第2章 キリスト教と医療の伝統
第3章 疫病と戦う聖人たち
第4章 イエスは手を洗ったのか―「清め」と衛生観念
第5章 疫病に翻弄された西洋―ペスト・赤痢・コレラ・スペイン風邪
終章 医学か宗教か
おわりに―思考停止に陥らないために
著者等紹介
竹下節子[タケシタセツコ]
比較文化史家・バロック音楽奏者。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。同博士課程、パリ大学比較文学博士課程を経て、高等研究所でカトリック史、エゾテリスム史を修める。フランス在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
61
西欧というよりキリスト教が疫病にどのような態度で臨んでいたかを論じた一冊。治癒神としてのイエスは以前別の本で読んだ記憶があるが、本書ではその面が根源にあるキリスト教とユダヤ教との違いから始まり、医療の伝統に衛生観念、中世西洋を襲ったペスト等の疫病、そして現在のコロナと歴史に沿ってその変化を説いている。イエスと手洗いとかフランス国王が按手によって病人を癒そうとした等、歴史にはなかなか書かれていない知識も多くその点では読んでいて面白い。キリスト教を持ち上げすぎな部分も散見されるが、総じて興味深い一冊であった。2021/07/27
bapaksejahtera
13
古代から現代、人類は疫病に如何に対処したか。カトリックの視点でイエスの言等聖書の記述、列聖された人々等様々を採り上げ、次いで近代医学の萌芽と進展が基督教社会に与えた影響、最後に今次のコロナへの欧州社会の反応を評価して終わる。キリスト教カバリズム、医学胎動期のパラケルスス、カトリック界の思想の変動等、キリスト教へのシンパシーにのない私の様な読者にも、著者の重厚な記述は理解を進める。慈悲、利他と言いつつ、疫病対処というと大きな活動展開のない今日の仏教に比べ、基督教の美質も分からぬではないが、やはり馴染めない。2022/04/22
遊未
7
東京で連日2万人近い感染者が出ている今、気になってしまうのが手洗い。ユダヤ教の形骸化し偽善的な「食事前の手洗い」をイエスは「手を洗わずに食事をしてもその人を穢れたものにしない。」と。水が豊富でない世界だしそれは正しい。しかし、衛生上は?信仰なくとも神社やお寺で参拝前に手を洗うし、食事前、大事な物に触れる前に手を洗う日本の日常に救われているかもしれません。2022/02/11
てくてく
5
飢饉や疫病は神罰というイメージで語られてきたにもかかわらず、今回のコロナ感染拡大についてはどのような言説はキリスト教側からは見なかった様な気がしていたが、そのあたりの裏付けとなるような、病の癒しがキリスト教において重要な要素になっていることを知ることができて面白かった。2022/12/31
dogufs
1
疫病を罪、医療を教会、ワクチン接種を聖体拝領や告解と重ね合わせて論じる視点は面白かったが、1つのテーマを深く掘り下げるのではなく、ユダヤ・カトリック文化圏の歴史的トリビアの羅列のような構成にしか読めなかったのがちょっと残念。 しかし、「終わりに」を含む最後の2つの章はぐっと来た。2023/08/14