内容説明
「下手な遠慮をせず、自分も生き、生かせていこう…」いつの日か誰にでも訪れるはずの「老い」と「衰え」、そして「死」。ひとはこれらをどのように迎えたらよいのだろう。老いと衰えのさまざまな兆候と症状を冷静にみつめ、思索してきた著者のエッセイ、小説を収める。
目次
自然と人生
老いの微笑 1(老いの門口;冬の色;老境;思想の老若;耳の老い)
日記から(昭和49年)
老いの微笑 2
(老いの微笑;老いの可能性;「若さ」と「老い」;記憶の穴;くりかえし;60前;死者を考え、死を見る)
古い記憶
庭の顔
鎌倉に暮らして
老いの微笑 3(私の健康法;「知人多逝」;ならび年;入れ歯;若い散歩者たち;先刻承知)
自分を生かす
自分は大切か
人生は「思うように」なるか
朝飯
彼岸
形見
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
uchiyama
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「僕らの感覚の器官が、眼や耳から、皮膚の触覚まで、もっぱら外部にだけむけられたもので、外部のものはかなり鋭敏に感じとる代りに、身体の内部にたいしてはまったく鈍感であるように、僕らの精神も他人を観察するほど客観的には自分自身を意識することはできません。」とありましたが、老年は、身体の衰えによって、嫌でも「内部」を意識せざるを得ないことなのだと思いました。それにしても、アンチエイジングなんかとは無縁の、冷徹な老いの微笑でした。2021/07/15
Lieu
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中村光夫の平明だが、物事の本質をピンポイントで突く文章が好きだ。健康のためにジョギングをしているとか、鎌倉の町は昔と変わったとか、エッセイは他愛もない話題が多いが、後半の短編三編は、ユーモラスな出だしとは裏腹に、身も蓋もなさと紙一重の、カラッとした皮肉がある。「身分不相応」なことをすることこそ贅沢の本質だという「朝飯」、最後の場面がわからなすぎて怖い「彼岸」、友人の形見に貰ったステッキが実は相当な高級品だったことがあとで判明し、亡友の奥さんに返すかどうかで一悶着する「形見」。2020/07/11