出版社内容情報
「狂気の母」という凄惨な図像に読み取れる死と再生の思想。それがなぜ育まれ、絵画、史料、聖書でどのように描かれたか、キリスト教文化の深層に迫る。
内容説明
イタリア・フィレンツェ郊外の小さな美術館で出会った一つの謎めいた板絵。それは死んだはずの赤ん坊をよみがえらせた聖人の奇跡を描いたものだった。この「嬰児復活の奇跡」と、その上位テーマたる「狂気の母」が、著者を思索の旅に招き入れる。聖餐・聖遺物といったキリスト教文化圏特有の信仰形態や、遡って古代エジプト、ギリシア、ケルト文化にも見られる「死と復活」の主題。これら多くの図像や史料を読み解きながら西洋精神の根幹を成す「死と復活」の思想の本質と、キリスト教の深層に肉薄する。
目次
第1章 「嬰児復活の奇跡」と聖遺物
第2章 聖餐とカニバリズム
第3章 聖杯伝説と生贄の祭儀
第4章 子殺しの魔女とケルトの大釜
第5章 ディオニューソスと「洗礼による死」
第6章 若返りの釜―グノーシス、錬金術、アンドロギュヌス
著者等紹介
池上英洋[イケガミヒデヒロ]
1967年広島県生まれ。東京芸術大学卒業、同大学院修士課程修了。東京造形大学准教授。専門はイタリアを中心とした西洋美術史・文化史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆずこまめ
10
我が子を調理する母という衝撃的な場面。キリスト教以前の民間信仰が根強く残っているのは、キリスト教徒ではない私には面白い。2016/04/02
東雲
9
友人から借りて。絵画に描かれた我が子を殺す母と、赤子を復活させる聖人の奇跡。何故このような絵画が描かれたのか、聖餐とカニバリズム、グノーシス主義とキリスト教以前の民間信仰との関連について纏められている。聖書について詳細な説明があったが、後半に行くにつれて関連性が薄いような印象。でもこういった視点から書かれる文献はとても好き。「狂気の母」に描かれる煮るという行為と民間信仰における復活と洗礼の関係について、また聖餐に於けるワインと酒の神ディオニーソス、死との関連が興味深い。2016/02/22
遊未
8
「聖杯とケルトの大鍋」「聖餐とカニバリズム」そう考えてもいいよね?ということがあっさり述べられています。メデイアにディオニューソス。キリスト教はどこから?聖書は内容はどこから?ひと時代昔には考えられなかった(書きにくかった?)部分の研究が進んでいくことは楽しみです。いつの日にか「Q文書」が明らかになる日があるのでしょうか。2017/02/13
T.Y.
7
母親が我が子を殺して調理し、それを聖ヴィンチェンツォ・フェレールが蘇らせたという「嬰児復活の奇跡」の図像。それを皮切りとして論じられるカニバリズムの伝統と、キリストの血肉たるワインとパンを口にする聖餐との繋がり。そこからさらに聖杯伝説、ケルトの大釜、ディオニュソス信仰、グノーシスと錬金術等も結び付けて論じられる。浩瀚な研究だが、美術史を専門とする著者にしては個々の作品の分析は比較的少なく、どちらかというと思想史の書という印象が強い。2014/05/03
水菜
6
面白かった。「母はなぜわが子を殺したか」というショッキングな帯にヒトメボレ。聖人をもてなすために子供を真っ二つにして料理したというテーマの絵から語られるキリスト教のダークな側面。犯罪者や聖人の死体が霊的な力を持つとされ、それを護符として、あるいは薬として求めた人々がいたという。日本の即身仏も連想される。またミイラが漢方薬として使われていたこともつながるような。p276に書かれているように、こうしたテーマは人類に共通しているのだろう。2014/06/01