出版社内容情報
シリーズ解説:
「彼を知りえたことは私の生涯の中で最も刺激的な知的冒険の一つであった」という B・ラッセルの証言を引くまでもなく、ウィトゲンシュタインの哲学的思索の軌跡は、二十世紀の知的世界が遭遇した一つの事件であった。比類のない分析力のおもむくところは、論理的に完璧な言語の構想から、具体的な語の使われ方に文法を見出そうとするところにまで及び、考察の照準は、一貫して言語の批判に向けられていた。
内容説明:
哲学研究への再出発
『哲学的考察』は1930年に書かれた遺稿である。『論理哲学論考』で全ての問題を解決したと考え、哲学から引退したウィトゲンシュタインが、再びケンブリッジに赴いたのは1929年1月であった。それ以後翌30年春までのノートに基づく『考察』は、ケンブリッジ大学への「研究報告」でもあるが、著書としての完成は、後に『哲学的文法』が計画されるに及び中止された。言語、論理、哲学の諸問題についての立ち入った考察は、それ自体としても、又初期思想からの移行期の資料としても、興味深いものがある。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
evifrei
24
論理哲学論考の捕捉的にも。当たり前の様に使われている概念を切り崩し、我々は世界を初めてありのままに見る事ができる。―君がいかに求めるかを語りたまえ、そうすれば私は、君が何を求めるのかを語るであろう。……自分は何を求めるのか。それは疑いようもなく、世界の記述。ウィトゲンシュタインの後についていくような、彼の示す世界像への接近へと手綱を引かれていくような。どこかに見え隠れするような世界の像。だが、私の手ではまだ掴みきる事は出来ない。ご多分に漏れず興奮気味だが、これだがら、ウィトゲンシュタイン中毒は治らない。2020/10/03
roughfractus02
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著者は論理世界をそれ自体ではなく、現実世界(『論考』のdie Weltの肯定)との関係において検討する。その際、理論を構築するには規則の「諸可能性を確定」する事実の記述とその写像の過程が必要となる。が、色彩を例として「赤かつ赤でない」と「赤かつ緑」という現象を「AかつAでない」は成り立たないが「AかつB」が可能となる論理空間に写像する時、微視的に見ても広がりを持つ現象は、幾何学的点を採用する論理空間では真偽以前に論理的に「無意義」となるしかない。過渡的とされる『考察』は、私的言語批判の契機となっている。2017/02/09