ナラティヴ・セラピーの冒険

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  • サイズ B6判/ページ数 337p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784422113333
  • NDC分類 493.72
  • Cコード C3011

出版社内容情報

<内容紹介>
最近、急速に注目を集めているナラティヴ・セラピーの創始者の一人であるデイヴィッド・エプストンが1991年から96年までに書いた論文を集めたもの。エプストンの人となりを表す第1章をはじめ、オリジナルな内容のものが多く、摂食障害や強迫神経症治療の実践報告や、行為障害への対応、夫婦間の確執に対する質問の工夫、子どもたちの一見異常とも思われる特殊な能力についての報告など、ケースも満載で、大変読みやすい。

<詳細目次>

第1章 ベニー、ピーナツマン
著者のセラピストとしてのルーツが語られる。ベニー、ピーナツマンと は、父親のニックネーム。「どのように訪問客を迎え、敬意に満ちた会話をするか」という点において、自分が父親の弟子であることをようやく理解するに至るまでのエピソードが披露される。カナダの小さな町での少年時代の物語。一九八三年オーストラリア家族療法学会特別講演の記録。

第2章 声
ミルトン・エリクソンとグレゴリー・ベイトソンを足して二で割ったような謎の人物、カール・アウエルの記念論文集に寄稿された、著者のアウエル体験記。偶然、飛行機に乗り合わせたアウエルからは、ナラティウ゛な認識論ばかりか、声/幻聴/精神医学に関する興味深い批判 が披露される。本稿には、アウエルを想起させた、統合失調症患者と 著者とのやりとりも盛り込まれている。

第3章 内在化言説 対 外在化言説
「問題の外在化」を言説実践として提示する、ナラティウ゛・セラピー中級者向け論考。人々を非難したり人々のアイデンティティと問題を混 同することの少ない文化を共有していこうという熱い思いが伝わる。「医学モデルの人間」を自称する慢性うつ病男性の夫婦療法の他、「自己-軽視」の外在化、遺糞症ケース、さらには狼男までが論じられる。一九九一年タルサでの講演記録。W・H・オハンロンのコメントも併せて収録。

第4章 内在化された他者への質問:ニュージーランド版夫婦療法
夫婦療法は、法廷や宗教裁判所、さらにはどちらかを精神異常と診断する精神医学的面接に酷似しかねない。そして、葛藤が極端であればあるほど、セラピストは選択肢を奪われていく。そこからの脱却を 目指して開発された質問法が「内在化された他者への質問」であるが、それは、それぞれのパートナーに相手の経験を何か経験することを可能にする。本章では、そのフォーマットが解説され、うつ病女性に対する夫婦療法の実践が、手紙によって提示されている。

第5章 イマジナリー・フレンド:彼らは誰か。誰が彼らを必要とするのか   
    ――エミリー・ベタートン、デイヴィッド・エプストンに語られたままに
夜の指しゃぶり癖を克服する一〇歳の女の子、エミリー。イマジナリー・フレンドが「変にできる」人たちに本当の友だちができるまでのつなぎだという理解からは、彼らがクモ恐怖に打ち勝つ方法やカニのつかみ方まで教えてくれることは、知る由もない。「好奇心を保つことと、本当に答えを知らない質問をすることが、この仕事の重要な原理」だというナラティウ゛・セラピーの真髄を伝えるミニ・レポート

第6章 オリジナリティの問題
抑うつ的で不登校の一六歳の少女、ロスリン。著者は、不幸の仲間になってくれという彼女の招待を辞退し、ふたりでオリジナリティの問題を話し合う。マリリン・モンローからシネイド・オコナー、ナイジェル・ケ ネディ、キャサリン・マンスフィールドまで登場。五往復の手紙によって再現されるそのやりとりは、ナラティウ゛な魅力に溢れている。「不幸」の外在化。

第7章 ちょっと待って、手紙を読むから
     ――マリー・ロバーツとデイヴィッド・エプストン
いわゆる家庭内暴力を主訴に、公立病院の成人精神科病棟に入院 させられた一七歳のロン。一九八〇年のケースであるが、著者の考案した「かんしゃく発作パーティー」という外在化技法が、治療的糸口として大きく役立つ様子が、記されている。家族のみならず、隣人や警察までもが、治療コミュニティに動員されていく。

第8章 会話を拡げる
「息を吸って吐くのと同様」、手紙を面接の当然の結果と見なす著者は、会話を豊かにし続けるために、書き言葉を媒体として利用する。「まるで蝶を捕まえる人のように、よいメタファーが現れるのを待っていて、捕まえたらクライエントに見せてあげる」人の手紙は、面接を要約するのみならず、招待状、解任状、公式独立宣言、さらには面と向かって言えないことを伝える手段ともなる。「最悪の結婚生活」に苦しむジェーンとラリー、(弟と今や反目する)親代わりを続けてきた一五歳のアン、母親代わりの姉からの独立を宣言する一六歳のロン、過食症からの自由を宣言する三三歳のローナ、そして、育ての親である実母が急 死し、実母の家族と同居し始めたもののトラブル続きの一〇歳のトミー など、手紙の提示によるケース満載。そして、大団円はミステリー、手紙を書く遺伝子はあるのか?

第9章 マイケル・ホワイトの「内包儀式」について再考する
     ――デイヴィッド・エプストンとアンネット・ヘンウッド
一〇歳のジミー。母親のスーと継父のジョンは、「もうこれ以上、自分たちのそばにいてほしくない」という理由で、ジミーを預けるべく児童精神科サービスに連絡してきた。そんな、子どもを受け容れられない親と、親から受け容れられていない子どもに対して何ができるのか? 当初は「きつく抱く技法」と呼ばれていた、マイケル・ホワイトの「内包儀式」が、通過儀礼として技法的に詳細に解説されている。

第10章 「スパイ-カイアトリックな視線」から関心コミュニティへ:専門家 のモノローグから対話へ
     ――ステファン・マジガンとデイヴィッド・エプストン
Psy-chiatricな視線をSpy-chiatricな視線と皮肉ったタイトルからも分かるように、摂食障害治療におけるナラティウ゛・アプローチの実践が、クライエントたちとの共同研究に焦点をあてて報告されている。その中核である関心コミュニティは、アンチ拒食/過食症リーグと呼ばれ、その問題の影響に抵抗したいという欲求を持つ諸個人が集まり、クライエントの知識の普及を可能にしている。リサとジェニファーという当 事者へのリーグについてのインタビューや、共著者のマジガンによるロレインへの治療者についてのインタビューの他、手紙書き運動の実践も報告されている。難治性うつ病の六〇歳のナイジェル氏や不安神経症の七〇歳のオスカー氏も登場。

第11章 いわゆる拒食/過食症へのナラティヴ・アプローチ
      ――デイヴィッド・エプストン、フラン・モリスおよびリック・メイゼル
アンチ拒食/過食症リーグの実際が一二のステップにより解説される(この点、本章は第一〇章よりも先に読まれるべきであろう)。後半は、リーグのメンバー、フラン・モリスとのセラピーを五通の手紙によって再現した記録。彼女は、一九六九年以来、拒食症を生き延びてきた新メンバーである。

第12章 デイヴィッド、ベンに相談する
本稿の中核にあるのは、合衆国のとある精神病院に強迫性障害で入院した一二歳のベンの家族と著者による第二回面接である。その模様はビデオ録画され、ニュージーランドの「反くせ同盟」の会長アルと副会長ティムに送られ、“不完全/不潔”証書の授与が審査される。ベンの強迫性障害(OCD)は、ミスターOとして外在化されている。さらに、このビデオはスミス家に送られる。同じく強迫性障害(ITと外在化されている)に悩む一五歳のロンのこの家族は、ベンに相談をもちかけることになる。このように、「リーグ」と呼ばれる当事者/家族のネットワークは、オルタナティウ゛な知識を蓄積していくのである。

第13章 問題をはらんだ関係について問題に相談する:外在化された問題との関係を体験するエクササイズ
      ――サリヤン・ロスとデイヴィッド・エプストン
外在化に関わったことがない臨床家のために、外在化された問題と独立した関係を持つことがどんなものか感じてもらい、それによって、問題とそれに悩む人に対する考え方に知覚的シフトを経験してもらうためのエクササイズが紹介されている。参加者が「問題」にインタビューするもので、問題の成功篇と失敗篇という二部構成のインタビューが中心を成している。例題として、「ジャックのわけのわからない不安さん」が登場。    
*著者の表記のない論文はすべて、デイヴィッド・エプストンによる。

巻末付録:ナラティヴ・セラピー用語集
監訳者あとがき

■著者 デイヴィッド・エプストン
マイケル・ホワイトと共にナラティヴ・セラピーを創始したニュージーランドのソーシャルワーカー/家族療法家。

■監訳者 小森康永(こもりやすなが)
 1960年 岐阜県生まれ。
 1985年 岐阜大学医学部卒業。以後10年間にわたり同大学小児科学教室に籍を置き、MRI等で研修し、主に小児の情緒障害の診療に従事。
 1995年 名古屋大学医学部で精神科研修。
 現在 愛知県立城山病院(精神科医)
□編著書
 『ナラティヴ・セラピーの世界』(共編、日本評論社、1999)
 『ナラティヴ・セラピーを読む』(ヘルスワーク協会、1999)
 『セラピストの物語/物語のセラピスト』(共編、日本評論社、2003)
 『ナラティヴ・プラクティス』(共編、現代のエスプリ、至文堂、2003)
□訳書
 ホワイトとエプストン『物語としての家族』(金剛出版、1992)
 ドウ・シェイザー『ブリーフ・セラピーを読む』(金剛出 版、1994)
 ヘルとウイークランド『老人と家族のカウンセリング』(金剛出版、1996)
 ホワイトとデンボロウ編『ナラティヴ・セラピーの実践 』(金剛出版、2000)
 ホワイト『人生の再著述』(ヘルスワーク協会、2000)
 ウィンスレイドとモンク『新しいスクール・カウンセリング』(金剛出版、2001)
 ウォーリンとウォーリン『サバイバーと心の回復力』(金剛出版、2002)
 モーガン『ナラティヴ・セラピーって何?』(金剛出版、2003)
 マクダニエル他編『治療に生きる病いの経験』(創元社、2003)
 ホワイト『セラピストの人生という物語』(金子書房、2004)

■共訳者
松嶋秀明(まつしま ひであき) 滋賀県立大学、教員
小室邦子(こむろ くにこ) 愛知県立城山病院、精神保健福祉士
新美加奈子(にいみ かなこ) 愛知県精神保健センター、精神科医
吉川徹(よしかわ とおる) 愛知県立城山病院、精神科医
奥野光(おくの ひかる) 二松学舎大学、教員
古田愛子(ふるた あいこ) フリー、臨床心理士

目次

ベニー、ピーナツマン

内在化言説対外在化言説
内在化された他者への質問:ニュージーランド版夫婦療法
イマジナリー・フレンド:彼らは誰か。誰が彼らを必要とするのか―エミリー・ベタートン、デイヴィッド・エプストンに語られたままに
オリジナリティの問題
ちょっと待って、手紙を読むから―マリー・ロバーツとデイヴィッド・エプストン
会話を拡げる
マイケル・ホワイトの「内包儀式」について再考する―デイヴィッド・エプストンとアンネット・ヘンウッド
「スパイ‐カイアトリックな視線」から関心コミュニティへ―ステファン・マジガンとデイヴィッド・エプストン
いわゆる拒食/過食症へのナラティヴ・アプローチ―デイヴィッド・エプストン、フラン・モリスおよびリック・メイゼル
デイヴィッド、ベンに相談する
問題をはらんだ関係について問題に相談する:外在化された問題との関係を体験するエクササイズ―サリヤン・ロスとデイヴィッド・エプストン

著者等紹介

エプストン,デイヴィッド[エプストン,デイヴィッド][Epston,David]
マイケル・ホワイトとの共著『物語としての家族』(1990)によって、外在化、手紙技法を中心にしたナラティブ・セラピーを世に問い、一躍脚光を浴びる。以後、精力的な執筆活動、および国際的な教育活動によって、知られている。カナダのピーターバラという小さな町で育つ。ニュージーランドで文化人類学を学び、70年代後半イングランドとウェールズのファミリー・インスティチュートで家族療法家の資格を取得。再びニュージーランドに戻り、さまざまな領域で、独自の実践を開始。オークランド市にあるファミリー・セラピー・センターで共同所長としてナラティヴ・セラピーを実践
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。